きらめく!シニアライフを楽しむ

出雲の山間で芸術活動を続ける2人の穏やかな日々

自作の絵に囲まれくつろぐ2人。出雲の寒さは厳しいが、こんなもんだと思うようにしたら慣れてきましたと笑う。


見学した後、すぐに契約した物件は広い間取りの純和風の日本家屋

家の中に並ぶのは、美しい装飾の調度品の数々。和室なのに、まるで洋室にいるようだ

吉田肇さん(73歳) 長尾禮子さん

 玄関から景色を見渡すと、目の前に広がるのはなだらかな山並みと空だけ。視界には他の建物が全く入らない、周囲の自然を独り占めするような贅沢な環境に驚いた。ここは出雲市の中心市街地から車で30分あまり、神戸川の支流のひとつ波多川に沿って上った山間にある佐田町。一昨年の夏、肇さんはここを新しい住処と決め、禮子さんと横浜から越してきた。

 東京で長年繊維関係の仕事をしていた肇さんは、服飾デザイナーで画家の禮子さんと30代の時に知り合う。その才能にひかれてビジネスパートナーとなった2人は、斬新なロングドレスやワンピースなどを制作し数々のブームを作った。禮子さんの作品はテレビ関係者からも注目され、ドラマで山口百恵さんや片平なぎささん、竹下景子さんらが着るドレスも多数手がけた。当時は一日3時間しか眠れないほど多忙でしたと肇さんは振り返る。その後、プライベートでもパートナーとなった2人。近年は、画壇に長尾レイとして名を連ね、賞も多く受賞する禮子さんの創作活動を支えるのが肇さんの仕事となり、充実した日々を過ごしていた。
 しかし、年を重ねるごとにふっと父母の出身地である山陰を思うことが増えていたという。そして一昨年の夏、新聞広告に「いなか暮らしの本・出雲地方」の文字を見つけると、すぐに書店に出向き本を買った。紹介してあった物件を問い合わせ、その週末には出雲市へと足を運び、即決した。

 「中国地方の山々の穏やかさ、美しさに魅せられました。家の間取りもゆったりしていて気に入ったのと、対応していただいた出雲市の定住支援センターの方の親切さも決め手でした」と肇さん。「何事も、良いと思ったものはすぐに決断するというのが若いころからの性分なんです」と笑う。

 「ここは山間のわりに広々としていて、田舎らしい良さがあります。もっと不便なところかと思っていましたが、道路もよく整備されていて、少し足を伸ばせば全国チェーンの店や大型店もたくさんあるので、車があれば不自由は感じません。これから通販なども試してみようと思っています。何より自然災害が少ないので、安心して生活できるのがいちばんです」と出雲での暮らしぶりを語る肇さん。

 禮子さんの創作活動は出雲に来てからも変わらず精力的で、毎日2階に設けたアトリエでキャンバスに向かう。「私の場合、自分の気持ちの中にある世界を好きなように描くので、場所は関係ありません。出雲での暮らしは大好きですよ。とても穏やかだし、人も親切な可愛い人ばかりですよ」と禮子さんも今の暮らしを楽しんでいる様子だ。

 「東京や横浜で暮らしていて思ったのは、山陰のイメージの薄いことですね。松江や出雲と言うと今はネームバリューもあっていいのですが、これが〝山陰〟となると少し損をしているような気がします。実際に来てみると本当に良いところなんですから、もっとその良さをアピールされればと思います」

 「春になったら昨年から土づくりをしている畑での野菜作りを頑張ります」と肇さんはにこやかに語ってくれた。