島根がもっと好きになる!地元編集部が見つけた島根のいいところ
VOL.30

【意外と知らない】
日本酒発祥の地、島根の酒蔵を訪ねて

【意外と知らない】日本酒発祥の地、島根の酒蔵を訪ねて
食べる 暮らす

「池月酒造」(邑南町)
―自然豊かな土地の個性を最大限に活かし、地域一体となって醸す老舗―

最初に紹介するのは、島根県中部、広島との県境にほど近い邑南町にある創業120年の「池月酒造株式会社」(以下、池月酒造)。山あいの静かな集落に立つ蔵の周囲には田んぼが広がり、澄んだ空気が流れています。この環境こそが、池月酒造の酒造りの土台になっています。

創業120年の歴史を感じる外観

仕込みに使う「江の川水系」の天然湧き水は、硬度0.3という全国的にも珍しい超軟水。発酵がゆっくりと進むため、低アルコールで、すっきりした飲み口になるんだそう。また、仕込み水と同じ水で育った米を使うことで、味わいに自然な一体感が生まれるといいます。
米は地元農家と連携し、休耕田を活用して栽培。地域で育てた米を地域で酒にする、循環型の酒造りが続けられています。お話を伺ったのは杜氏の末田さんです。

できるだけ農家さんの顔が見えるものを使いたいんです。地元の経済も回る、そういうつながりも大切にしたいですね。

こうした環境は、豊かな自然に恵まれた地域だからこそ実現できるといいます。

広い土地の確保が難しい都会では、なかなかできないこと。これぞ島根の良さだと実感しています。

棚にディスプレイされた代表銘柄「誉池月(ほまれいけづき)」

ここでは、木槽搾り(きぶねしぼり)という昔ながらの製法を大切にした酒造りを続けています。

時間をかけることで、お米の風味がしっかり出ます。辛口ですっきりしながらも、甘みのある味わいになります。

木槽搾り(きぶねしぼり)の様子 / 袋に入れたもろみを重ね、ゆっくり圧力をかける

島根では、およそ10年ほど前、高齢化によって杜氏の世代交代が一斉に進み、若い世代が中心となる酒造りへと変わってきました。個性を追求し、より付加価値の高い酒を目指す動きが広がっています。末田さんもそのひとりです。

日本酒って、少しハードルが高いお酒というイメージが強いと思うんです。それを私たちで変えていきたいですね。

こだわりの酒造を紹介してくださる末田社氏

県内の飲食店では、地酒を積極的に扱う店も多く、地域全体に日本酒文化が根付いている印象です。こうした背景にあるのは、島根の酒蔵同士の強いつながり。

みんなで切磋琢磨しながら、それぞれの酒造りをしています。ライバルというより、一緒に島根を盛り上げる運命共同体みたいなものですね。

蔵では働き方にも新しい動きが見られます。池月酒造では、県外から移住し、夏は農業、冬は酒造りという半農半Xの形で働く人や、女性の蔵人も多く活躍しています。

実はいま、男性よりも女性の人数が多いんです。女性ならではの視点や感性が、酒造りの繊細な作業に向いていると感じますね。

こぼれ話 真っ赤なタンクはエヴァンゲリオン仕様!

真っ赤なタンクは、なんとエヴァンゲリオン弐号機をイメージしたデザインなんだそう!歴史のある酒蔵とのギャップが面白い。他にも、随所に杜氏のエヴァ好きが溢れていますよ♪

エヴァンゲリオン弐号機をイメージしたタンク /数字のデザインにまでこだわりが!
こぼれ話 仕込み中は眠れない!?

仕込み期間中(1か月程度)は、厳密な温度管理が欠かせないため、まとまった睡眠時間が取れないんだそう。離れていてもスマホで温度を確認できますが、およそ3時間おきにチェックが必要。お酒は生き物!まさに子育てのように愛情をたっぷり注ぎます。

今回紹介した酒蔵の情報はこちら▼
池月酒造:島根県邑智郡邑南町阿須那1-3 TEL:0855-88-0008

「古橋酒造」(津和野町)
―津和野の風土を大切にしながら、日本酒の可能性を広げる初陣―

次に紹介するのは、島根県西部、津和野町にある明治11年創業の老舗酒蔵「古橋酒造株式会社」(以下、古橋酒造)。津和野は、山陰の小京都とも呼ばれ、情緒あふれる城下町の風景が広がります。

国の登録有形文化財にも指定されている店舗 代表銘柄「初陣」
初代蔵元が17歳のとき、鳥羽伏見の戦いで初陣を飾ったことが名前の由来

仕込みには、日本一の清流・高津川の源流、青野山の天然伏流水「天泉(てんせん)」を使用。軟水ならではのやわらかな口当たりの酒になるんだそう。杜氏の古橋さんご夫妻に話を伺いました。

毎回、汲みに行く手間はかかりますが、やっぱり湧き水は違います。うちの酒の味を支えてくれている大切な水ですね。

米は地元農家が栽培する山田錦や佐香米を使用。原料、品質にこだわり、すべて醸造アルコール無添加で酒造りを行っています。

職人の熟練した感覚によって品質が守られている

また、気候に恵まれていることも、良質な地酒が生まれる理由の一つ。津和野の冬は、厳しい寒さに包まれます。まさに寒仕込みといわれ、日本酒造りに適した環境ですが、朝晩の寒暖差が大きく、繊細な温度管理が欠かせません。

もろみが冷えすぎないよう、特に気をつけています。便利な機械もありますが、やはり最終的な見極めに必要なのは、数字よりも人の感覚ですね。

酒造りに向き合う古橋社氏

こうした丁寧な酒造りが評価され、「初陣」は2022年から5年連続で「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」の最高金賞を受賞。幅広いファンづくりにつながっています。

日本酒に興味を持ってもらえるきっかけになるのは嬉しいですね。

「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」最高金賞受賞 / 歴代トロフィー

受賞をきっかけに、広島のフレンチレストランで日本酒とのペアリングイベントも実施。フルーティーな香りをもつ「初陣」はフレンチとの相性もよく、とても好評だったそう。

コース料理で純米酒を燗で出すといった新しい試みも面白かったですね。持参した湧き水も好評で、津和野の天然水のおいしさを実感してもらえました。

近年は飲みやすい酒が主流になっていますが、古橋酒造ではそれだけでなく、米の旨みをしっかり感じられる酒を目指しています。

やはり私たちは、お米のもつ風味を活かしたお酒にこだわっていきたいですね。

また、地元農家や農協、酒販店が集まって「津和野にこだわった酒造りの会」をつくるなど、地域のつながりも大切にしています。島根西部の酒蔵が集まる石見蔵元会では、年に一度、酒を囲んで交流を深めているそうです。

特にテーマは決めず、気軽な飲み会というのがちょうどいいんです。今年もよく頑張ったなって、お互いを労っています。

地元のみなさんと一緒にお酒をつくっている!という一体感を感じます。

そんな気取らない時間が、蔵同士の距離を縮め、島根の酒造りを一緒に守っていこうという絆にもつながっています。

デザインにこだわったラベルが目をひく

こちらでは、ふるさと島根定住財団の産業体験をきっかけに働き始めた蔵人がいます。10年ほど前に鎌倉から津和野にIターン。現在は正社員として酒造りに励まれています。

ひたむきに頑張ってくれて、とても助かっています。これからも、どんどん技術を吸収していってほしいですね。

「めたこいちゃん」のぬいぐるみ
人気のチャームを店内で販売
こぼれ話 かわいいキャラクターやデザインに注目♪

津和野の堀を泳ぐ、ふっくらした鯉をモチーフに生まれた「めたこいちゃん」。愛くるしい姿が大人気♪実はデザインを手がけているのは古橋さんの奥様です。
「初陣イレブン」のラベルにも注目!未来を見据える女性が繊細なタッチで描かれています。イラストを手がけたのは、某人気ゲームのキャラクターデザインでも知られる山口県在住の種田和宏さん。日本酒のイメージを刷新するイラストに、思わず手が伸びてしまいますね♪

津和野の流鏑馬(やぶさめ)神事の装束がモチーフ
こぼれ話 津和野はコンビニよりも酒蔵が多い

津和野には酒蔵が3軒ある一方で、コンビニは1軒だけ。なんと、コンビニよりも酒蔵の数のほうが多いんです。歩けば酒蔵に出会う・・・なんて酒どころならではですね!津和野のまち散策を楽しみながら、酒蔵めぐりも楽しんではいかがでしょうか?

今回紹介した酒蔵の情報はこちら▼
古橋酒造株式会社:鹿足郡津和野町後田ロ196  TEL:0856-72-0048

「富士酒造」(出雲市)
―手づくりにこだわり「出雲で醸し、富士を志す」次世代へつなぐ酒造り―

最後に紹介するのは、出雲市駅から徒歩5分という街の中心部にある昭和14年創業の「富士酒造合資会社」(以下、富士酒造)です。

木のぬくもりを感じる外観

代表銘柄「出雲富士」。日常の食卓に寄り添う食中酒として親しまれ、地元はもちろん全国に多くのファンを持つ酒です。

出雲の地で富士山のように日本一愛される酒をつくりたい、という初代杜氏の願い

仕込み水には、出雲平野を流れる斐伊川の伏流水を使用。米は、出雲富士の酒米専門農家とともに農薬や化学肥料を極力抑えたエコ農法で栽培。持続可能な地元産の酒米づくりに取り組む姿勢も、この蔵の特徴です。
お話を伺ったのは、杜氏の今岡さん。出雲杜氏の技を継承し、木製の蒸篭型甑(せいろがたこしき)や木槽搾り(きぶねしぼり)など、伝統的な手法を大切に守っています。

とにかく手づくりにこだわってきました。もちろん効率化のために機械を使う部分もありますが、酒造りのコアな部分は人の感覚を大事にしたいんです。

そんな姿勢の根底には「酒造りの細部に神様は宿る」という信念があります。

いつの時代の職人が見ても、ちゃんとした酒造りをしている、そう言ってもらえる蔵でありたいんです。ヤマタノオロチ伝説の舞台である、この土地で酒造りをする誇りを持って、ブレずに、ど真ん中の手づくりの酒を次の世代へつないでいきたいですね。

富士酒造に代々伝わる木槽(きぶね)

島根は、昔から地域ごとに酒文化が根付いています。それぞれの土地で独自の味わいを育んできた個性豊かな蔵が、東西に幅広く点在しています。

日本酒業界の規模は決して大きくありません。だからこそ、みんなで手を取り合って盛り上げていきたいです。島根はもちろん、全国の蔵が協力して日本酒の魅力を伝えていく必要があると思っています。

同じ米と水を使っていても、蔵が違えば味わいが変わるという日本酒。それこそが酒の奥深さだといいます。

工程や造り手の技術で、個性を出せるのが酒造りの面白さ。ただ広めるだけじゃなく、酒を醸す楽しさや素晴らしさ、そういう深い部分も知ってもらいたいですね。

それぞれの個性が光る日本酒たち

料理との調和を大切にしている出雲富士。やさしい口当たりが特徴で、よく冷やして飲むのがおすすめだそう。

幅広い料理に合うので、いろいろ試して、自分なりの組み合わせを見つけてほしいですね。

富士酒造では働きやすい環境づくりにも力を入れています。以前は朝早かった勤務時間を見直し、現在は朝8時開始、週休2日制へと変更。製造データを社内で共有、未経験者でも学びやすいよう研修体制も整えています。

まずは自分や家族を大事にした上で、思いきり仕事に打ち込んでほしいです。この仕事を一生の仕事として続けてくれたら嬉しいですね。

そんな富士酒造でも、ふるさと島根定住財団の産業体験制度を活用し、県外からのIターン者が働いています。

未経験でも、一緒に働きながら本格的な酒造りを学べます。興味があれば、ぜひ挑戦してほしいですね。

産業体験を通じて活躍する蔵人

杜氏を受け継ぎ21年目、若い頃は自分が求める酒造りに必死だったという今岡さんですが、少しずつ意識が変化してきたといいます。

おいしい酒ができるのは、まわりの支えがあってこそ。いまは、社員みんなが健康で、幸せに酒造りが続けられる環境を整えることが自分の役目だと思っています。

基本は大切にしながらも、自由に挑戦し、さらなる高みを目指してほしい、と次の世代を担う蔵人たちにエールを送る今岡さん。進化を続ける富士酒造の動向に目が離せません。

誇らしげに並ぶ出雲富士
こぼれ話 蔵人は納豆が食べられない?

酒造りの仕込み期間中、蔵人たちは納豆を食べないようにしているそう。というのも、日本酒は微生物を扱う繊細な仕事。特に生命力の強い納豆菌が蔵の中に入るのを防ぐため、社員全員で控えているのだとか。納豆好きにはつらいですが、仕込みが終わる夏の時期に思う存分味わっているそうです。

こぼれ話 利き酒をするにも一苦労?

酒蔵といえば、利き酒も仕事というイメージがありますよね。でも実は、そう簡単ではないそう。徒歩圏内に住む杜氏以外は、飲酒運転を避けるため利き酒の日を決めて実施。新年会、BBQのタイミングに合わせて行うこともあるそうです。意外ですよね。

今回紹介した酒蔵の情報はこちら▼
富士酒造合資会社: 島根県出雲市今市町1403  TEL:0853-21-1510

一度は飲みたい!島根の銘酒を飲み比べ

酒蔵を巡った後は、それぞれの代表銘酒を飲み比べ!日本酒初心者Mさんと日本酒大好きTさんの2人が、グラスを傾けながら、改めて感じた島根の酒造りの魅力を語り合いました。

左から古橋酒造の「純米大吟醸 初陣」、池月酒造の「誉池月 純米 佐香錦60黒ラベル」、富士酒造の「手づくり純米 出雲富士」です。

まずは、富士酒造の「手づくり純米 出雲富士」から。

香りが華やかで優しい口当たり。

お米の味がしっかりしていて余韻が残ります。濃いめの料理にも負けない、どっしりとした存在感がありますね。私なら熱めの燗で、揚げ物やお肉、煮付けとかに合わせたい。

次は、池月酒造の「誉池月 純米 佐香錦60黒ラベル」をいただきます。

香りは甘そうなのに、意外とすっきり。少し酸味があって、白ワインのような軽やかさも。

アルコール度数も低めで飲みやすい。私は、冷やで海鮮系の料理と合わせたいかも。

最後は、古橋酒造の代表銘柄「純米大吟醸 初陣」をいただきました。

口に入れた瞬間、香りがふわっと広がります。甘みもしっかり!ゆっくり味わいたくなる一本ですね。私はナチュラルチーズと合わせたくなりました。

フルーティーな感じ♪ワイングラスで飲むと香りがより立ちやすいですね。お刺身はもちろん、あごの野焼きとかの練り物や、意外とフルーツなんかも相性が良さそう!

―3つの日本酒を飲み比べ終えて、いかがだったでしょうか?

思ったより飲みやすくてびっくり。新しい世界に足を踏み入れたようなワクワク感があって、ハマる人の気持ちが、わかった気がします。

島根のお酒は個性がはっきりしている印象。日本酒の風味をしっかり味わいたい人に響くタイプかもしれませんね。

味や香りがまったく違うのが面白かったです。例えば、ウィスキーやビールも銘柄によって違いがあるけど、日本酒はさらにわかりやすかった気がします。好みに合うお酒を探すのも楽しいですね。

今回紹介した以外にも個性豊かな名酒が、まだまだたくさんあります。島根は、海沿いと山あいで気候や環境も異なるため、とにかく多様性に富んでいるのが特徴。中国山地が育む、清らかな軟水と良質な米、そこに職人のこだわりや技が加わって生まれる島根の日本酒。この地ならではの味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか?

※こちらの記事は2026年6月公開

タグ
食べる 暮らす
シェアする!

オススメ記事Recommended Articles

島根のイイところ編集部Editor

くらしまねっと 島根のイイところ編集部 えむこ
島根のイイところ編集部ふじた

東京から島根へUターンした出雲出身の編集部スタッフ。
趣味は食べ歩きとスポーツ観戦。
週末は娘とともに、島根のあちこちへおでかけ。
島根で見つけた魅力をお届けしていきます!