島根生まれ島根育ちの20代女子。旅と写真が好きで、地元の“とっておき”を見つけると、紹介しないと気が済まないタイプ。今回は、地元民に愛されている飲食店をレポートしてきました!
1軒目:GUEST HOUSE & CAFE Harētel(ハレテル)(益田市・ゲストハウス&カフェ)/オーナー 森井さん
―海を一望するカフェで、麹とコーヒーと、人をつなぐ旅の宿―
旅の出発点は、萩・石見空港から車で5分。目の前に日本海が広がる「GUEST HOUSE & CAFE Harētel(ハレテル)」。オーナーの森井さんは広島に本社を置く企業の会社員として、中国地方を中心に転勤しながら約30年勤めていました。最後の転勤先となった益田市で暮らしている際に「こんなに海が綺麗な場所なのに、この海岸にはゆっくりできる場所がない」と感じ、定年前に早期退職してゲストハウス兼カフェを開くことに。
定休日には宿泊客を石見銀山まで案内したり、「今晩の食べ物ある?」と一緒にスーパーへ立ち寄ったり・・。「僕にできるおもてなしは何でもやります!」と語る森井オーナー。その根底には「益田っていいところだな」と思って帰ってほしいという熱い想いがあります。
「ハレテル」って、どんな意味が込められているんですか?
適当につけたんですけどね(笑)。「ハレの日」の「ハレ」と、空の明るさから。偶然なんですが、ハワイ語で「ハレ」って「宿」って意味もあるらしくて。客室の名前も全部ハワイ語にしていたので、後からピッタリだって気づいた感じです。
そんな偶然が・・!こだわりのポイントはありますか?
立地しかないです(笑)。都会じゃ絶対ないですよ、これは。お店をつくる前、この海岸を毎日ランニングしていたときに「ここでゆっくりできる場所を作りたい」って気持ちが強くなって。
人気メニューは「麹のプレート」。パートナーの方が「製麹(せいきく)」の資格を持たれており、自家製の醤油麹・塩麹・玉ねぎ麹を調味料に使った体に優しい一品です。ヴィーガンの方も要チェック。今回はその麹を使ったチーズケーキをいただきました。
麹のチーズケーキ、美味しかったです。甘さ控えめで、食べても罪悪感ない感じ(笑)。
砂糖を半分にしてキビ糖を使い、油もココナッツオイルにしています。体に入れるものに彼女(パートナー)はすごく敏感で。その横で僕はポテチを食べてるんですけどね(笑)。
もう一つのこだわりがARMS COFFEE®(アームズコーヒー)。生豆をお湯で一粒ずつ手洗いしてから焙煎するという珍しい製法です。
コーヒー豆を「洗う」って初めて聞きました。どうしてそういう製法に?
豆って現地の水に浸けて赤道を越えて来るし、ポストハーベストの農薬もある。それをそのまま焙煎するより洗った方が良くないですか?キャベツだって洗うでしょ(笑)。
言われてみたら確かに(笑)。そして、すごく飲みやすかったです!
洗うのと丁寧な抽出の掛け合わせで、コーヒーが苦手な人でも「これなら飲める」って言ってもらえることが多くて。胃にも優しいんですよ。
「オーナーさんに会いに来たんです」
ある日、秋田から一人の女子大生がハレテルさんにやってきました。お父さんは近くで釣りをしながら車中泊、娘だけが宿泊するという少し変わった旅のスタイルです。「秋田から?何しに来たの?」と聞いた森井オーナーに、彼女はこう答えました。
「私、オーナーさんに会いに来たんです!」
聞くと、彼女は全国のゲストハウスを月1軒ずつ巡り、オーナーの人となりを知ることが目的の旅をしている、と言います。「“私に”会いに来てくれた。それが一番嬉しかったですね」と森井オーナー。毎日が一期一会なハレテルさん、素敵ですね。
森井さんが「地元民に愛されている」と思う石見のお店を1軒教えてもらえますか?
「和食 あお」さんです。以前「由きち(ゆきち)」という名前だった頃に縁ができて、私を含め7月生まれの人を集めて、飲み会をそこでやったんですよ。最初は7月生まれ限定のつもりが5月生まれの人も参加することになり、最終的に誰でも参加OKの飲み会になっちゃって(笑)。料理の腕も確かだし、熱燗がめちゃくちゃおいしくて。あの時は飲みすぎちゃったなぁ・・料理とお酒を大切にしている気持ちが伝わってくるお店です!
ハレテルさんのおしゃれな店内。ハワイ語で名前がつけられたゲストルームには、窓から海が一望できるお部屋も・・どんな景色が広がっているかは、実際に泊まってみてのお楽しみ!
今回紹介したお店の情報はこちら▼
GUEST HOUSE & CAFE Harētel(ハレテル)
島根県益田市高津町イ2577-125
TEL:080-1928-3946
2軒目:和食 あお(益田市・和食)/大将 青木さん
―「滋味」を伝え続ける。リーズナブルに楽しむ、本格日本料理―
森井オーナーに紹介されてやってきたのは「和食 あお」。青木大将がこの店で働き始めたのは、女将が「由きち(ゆきち)」という屋号で切り盛りしていた頃のこと。その後、お店の移転をきっかけに、屋号を「和食 あお」に改め、青木大将のお店として生まれ変わりました。
「あお」という名前の由来を教えてもらえますか?
青木だから「あお」っていうのと(笑)、「滋味(じみ)」という言葉を込めています。「滋味」——本当においしいものを食べた時に出る「ああ、おいしい」という言葉をかけています。
和食の本質のような言葉ですね。
「日本料理」と言うと敷居が高いイメージになるので「和食」と名付けて親しみやすくしました。リーズナブルに本格的な日本料理を楽しんでいただけるように、というのが一番のポイントです!
看板メニューは「八寸の盛り合わせ」。テーブルに運ばれてきた瞬間、目に飛び込んでくる色とりどりの小料理たち。季節の食材を使ったひと口サイズの料理が、ひとつの器に美しく詰まっています。しかも一品一品をスタッフの方が丁寧に説明してくださるので、食べる前からワクワクが止まりません!
これ全部説明されているんですか?すごい!
日本料理の価値を若い方にも伝えていくことが、僕たちの目標であり使命だと思っています。ただ『美味しい』だけでなく、それが何なのか、どういったものなのかを分かった上で食べていただくのが一番の理想ですね。だからこそ、八寸の一品一品についても、それがどういう料理なのかをしっかり説明して、伝え続けることを大切にしています。
確かに、知ってから食べると感じ方が全然違いますよね。
この日いただいた「炙り鱧(はも)とトマトのお浸しジュレ」。炙りの香ばしさとふんわりした食感に、トマトの酸味と出汁のジュレが絡んだ、夏らしい一皿でした。
鱧(はも)を初めてちゃんと食べました。こんなにふわふわなんですね!
『鱧(はも)』も同じように、どういう料理なのかをしっかり説明して、自分が提供したい価値とお客さんの価値観が合ったときが一番嬉しいですね。
高津川の天然鮎の塩焼き。絶妙な塩加減!パリパリほくほくでとてもおいしかった・・・。
そして、お酒のセレクトも「食中酒」にこだわっており、料理と調和するキレの良い辛口が中心です!
お酒を選ぶ際に何を意識されているんですか?
料理との相性で選んでいます。甘いお酒でも、キレが良ければ選ぶことはあるんですが、余韻が長いとどうしても料理と合いにくくて・・。飲み終わった後にスッとキレのあるものが、食中酒としては一番いいですね!
料理に合うかどうかを大事にされているんですね!
そうですね。お酒単体で美味しいことも大事ですが、料理と一緒に飲んでどうか、というところが一番大事で。
和食あおさんに並ぶのは、それだけこだわり抜かれたお酒ということですね!
料理人の道に入ったのは「自分を叩き直したくて」
「結構、だらしなかったんですよ」と笑う青木さん。それを叩き直したくて、あえて厳しい世界へ飛び込むことを選びました。大阪の調理専門学校を経て、厳しいお店で修行。「当時はまだ教育も厳しい時代でしたから(笑)。」とさらりと言われますが、そこで培われた技術と精神が、今の和食あおの土台となっています。
お店の今後についても伺いたいのですが、若いお客さんにも来てもらいたい、という想いはありますか?
もちろんあります。今は洋食が主流で、和食は少し敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、だからこそ若い方にもう一度和食に戻ってきてほしいんです。そのために、日本料理をリーズナブルに、かつ分かりやすく提供して、まずはこういう料理があるんだと知ってもらえる入り口になれればと思っています。
今回お料理をいただいて、和食のおいしさ、奥深さを改めて感じました!
そんな青木さんが「地元民に愛されている」と思う石見のお店はどこですか?
「Vital(ヴィタル)」さんです。オーナーシェフの横田さんは以前同じ職場にいた先輩なんですが、料理の技術が圧倒的で。接点はそんなに多くなかったんですが、とにかく際立っていたんです。洋食で、リーズナブルに本当においしいものが食べられますよ。
青木さんが尊敬する先輩がつくるお料理、絶対においしい!
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和食 あお
島根県益田市駅前町20-4
TEL:0856-32-3471
3軒目:Vital(ヴィタル)(浜田市・ビストロ・洋食)/オーナーシェフ 横田さん
―キャリア30年以上のシェフが作る、カジュアルに本物の洋食を楽しめる場所―
青木大将に紹介されてやってきたのが「Vital(ヴィタル)」。オーナーシェフの横田さんは18歳から料理の世界に入り、フレンチを中心に30年以上のキャリアを持つ料理人。現在のヴィタルはそんな横田さんの長年の最高傑作が味わえる、浜田の顔ともいえるお店です。
「ヴィタル」という名前の由来はなんですか?
フランス語で「生命力」「活力」という意味です。英語の「バイタル」とはちょっと違う。食事をしながらそういうパワーをもらってほしいという思いで付けたんです。なかなか伝わらないですが(笑)。
私も最初「バイタル」って読みそうになりました(笑)。でも意味を知るとすごく素敵な名前ですね。
食事って、ただお腹を満たすだけじゃなくて、元気になったり、誰かと話して気持ちが弾んだり——そういう時間であってほしいので。
「ヴィタル」に来られるお客さんにはどのような方が多いんですか?
女性と、あと年配の方が多いですね。年配の方は昔から美味しい洋食を食べてこられているので、味の違いをよく分かってくださっているんです。お孫さんが帰省する時に「ビーフシチューを予約しておいて」とリクエストされて、おじいちゃんおばあちゃん、息子さん夫婦、お孫さんの3世代で来られることもありますよ。
3世代!ということは、今のお店(ヴィタル)を開く前からの長いお付き合いのお客さんも?
そうですね。12年以上のお付き合いになる方も。昔から来てくださっているおばあちゃんが「階段がきついよね」って言いながら来てくれる(笑)。ありがたいですよ、本当に。
看板メニューの仔羊のグリルとガーリックフランス。「本当においしい」ってこういうことなんだと、シェフの実力で思い知らされた二品です。
このお店で結婚式をあげました——そして、あのお店とも
「自分の結婚式をここ(ヴィタル)でやりました」と横田シェフ。美容師の友人に髪を担当してもらい、ウェディングケーキも自分で焼き、昔の仲間に料理を手伝ってもらって、そして、下の階の写真スタジオで撮影まで。まさにお店全体で祝福した手作りの結婚式でした。
そしてつい昨年、今度は横田さんの親族の結婚式が、数珠つなぎ1軒目の「ハレテル」で行われることに。洋食は横田さん、和食は和食あおの青木さん、プロの2人が力を合わせた"合作"ウェディングが実現しました。結婚式の舞台がヴィタルからハレテルへ、料理人の縁が巡り巡ってつながっています。
人気の「生春巻き」は野菜たっぷりで女性にも男性にも好評。フレンチをベースにアヒージョ、パスタ、ピザなど、ヨーロッパ各地の料理が揃います。
年配のお客さんが多いという話でしたが、若いお客さんにも来てもらいたい、という想いはありますか?
もちろんです。若い方にこそ、ちゃんとした美味しいものを知ってほしいですね。100円のレトルトもいいけど、3000円のビーフシチューとの違いを知っていてほしい。プロが作ったものを一度食べて美味しいと思えたら、それが基準になるので。
そういう基準を持っているかどうかで、普段の食事の楽しみ方も変わってきますよね。では、そんなたくさんの基準をお持ちの横田さんに伺いたいのですが、「地元民に愛されている」と思うお店はどこですか?
「STAGIONE(スタジオーネ)」さんですね。オーナーシェフの藤原くんは昔一緒に働いていた後輩なんですが、常に新しいことに挑戦しているのがSNSからも伝わってくる。パンも自分で焼いているし、コースで行くのが正解のお店ですよ。
先輩から後輩へのリレーなんですね!ということは、「和食あお」の青木大将も含め、みなさん昔一緒に働いていた仲間なんですか?
そうなんですよ!島根の食シーンをそれぞれのやり方で盛り上げている。助けが必要な時はお互いに頼りあう。なんか、いい話でしょ(笑)。
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Vital(ヴィタル)
島根県浜田市黒川町4204 鮎川プラザ2F
TEL:0855-23-8021
4軒目:STAGIONE(スタジオーネ)(益田市・イタリアン)/オーナーシェフ 藤原さん
―父から継いだ"季節"という名前で、旬の食材とイタリアンの挑戦を続ける―
数珠つなぎの旅、最後の一軒は「STAGIONE(スタジオーネ)」。イタリア語で「季節・旬」を意味する「スタジオーネ」。お父様がかつて営んでいたフレンチレストラン「ラ・セゾン」(フランス語で「季節」)と同じ意味を持つ名前を、ジャンルをイタリアンに変えながらも引き継ぎました。もともとはセゾングループの店舗として始まりましたが、その後に藤原さんが独立する形で再スタートを切ることに。
父の影響もあり、気が付いたら料理の道に入っていましたね。店名の持つ意味は引き継ぎつつ、スタイルとしては自分のイタリアンで勝負する、という形です。
「ラ・セゾン」から「スタジオーネ」へ、フランス語からイタリア語に変わっても「季節」は変わらない。藤原さんならではの、おしゃれな継承の形ですね。
父が守ってきたものを、自分なりのスタイルでつないでいければと思っています。
メニュー完成後も研鑽を重ね続けているというテリーヌ。今回いただいたのは「どんちっちアジのテリーヌ」です。どの角度から見ても画になる芸術的な美しさ・・!
スタジオーネさん最大のこだわりは「旬の地元食材を使い、毎年ブラッシュアップしたメニューを盛り込んだコースを提供する」こと。名前の通り「季節」のものを一番いい状態で届けるため、常に工夫や試行錯誤を重ねていらっしゃいます。
ヴィタルの横田シェフも「藤原シェフは常に新しい料理に挑戦している」とおっしゃっていました。
そうなんですね(笑)。毎年食べに来てくれる常連のお客さんがいるので、「今年が一番いいね!」と言ってもらえることを目指して頑張っています。
お客さんは女性が多いとのことですが、利用シーンは幅広く、2人での記念日利用から、団体など10人以上の食事会まで幅広く対応しています。
また、藤原シェフが食材選びにおいて大切にしていること・・それは「生産者の人となり」。
食材を見極める上で意識していることはありますか?
野菜には生産者の人柄が出るんですよ!「この人の野菜だから使いたい」「この人が新しく作ったものを使いたい」——そういう気持ちで食材を選んでいます。
生産者の方との関係を大事にされているのですね!お店を続けて来られた中で、印象に残っているお客さんとのエピソードなどはありますか?
以前、来てくださった高齢のお客様からお手紙をいただいて。「ここで食べることを楽しみに生きていこう」という内容で、読んでいて泣きそうになりました。その後、娘さんから電話がかかってきて、ご本人にも代わってもらって・・、営業中に涙をこらえるのに必死でしたよ。自分の料理がそんなふうに誰かの「生きがい」になっていると思うと、この仕事をやっていてよかったと心から思いました!
松永牛のシンシンのロースト。益田市のブランド牛の希少部位「シンシン※」を丁寧な火入れでローストした一品。口溶けの良い脂と柔らかなお肉が特徴の黒毛和牛、ほっぺたが落ちました。
研究を重ねたズッキーニの天ぷらは「いつかこれを主役にしたメニューを作りたい!」と言うほどの自信作です。
※シンシン・・・牛のもも肉のさらに内側中央にある非常に柔らかな希少部位
ヴィタルの横田さんとはどのようなご関係なんですか?
実は高校生ぐらいの頃から知っていて、いいお兄さんって感じです。以前「島根イタリー」というイベントで、うちのスタッフがあたふたしていたら「やるよ」って一緒に手伝ってくださったこともありました。事あるごとに色々と相談をしている頼れる先輩です。
アムスメロンのデザート。
「昨年は違うものを出していましたが、2026年バージョンの主役はメロンです。」と藤原シェフ。
暑くなってきた季節に食べたいひんやりスイーツです。
コック帽へのサインから始まった、10年にも及ぶ縁
学校での「味覚の授業」を終えた後、子どもたちから「サインして!」と求められた藤原シェフ。紙のコック帽にサインをしたら、なんと誕生日にそれを持ってスタジオーネへ来てくれた子が・・!「それから毎年誕生日に来てくれて、今は高校生になってバイトとして働いてくれています。」と藤原シェフ。味覚の授業でつながった縁が、今も続いています。
今回紹介したお店の情報はこちら▼
STAGIONE(スタジオーネ)
島根県益田市駅前町17-1 EAGA 2F
TEL:0856-22-5695
4軒を巡ってみて いのっぴの感想
ハレテルからはじまり、和食あお、ヴィタル、スタジオーネへ!一日かけて石見を食べ歩きました。海を眺めながらのコーヒーと麹チーズケーキ、色とりどりの日本料理、フレンチ仕込みの洋食、季節の食材を活かしたイタリアン。どのお店も「また来たい」と思わせる温かさがありました。
石見って、思った以上に食でつながっている地域なんだなと感じました。
個性豊かで、レベルの高いお店が石見にはたくさんある。これは、もっと多くの人に知ってほしいですね!
4人の店主を結ぶのは、長年積み上げてきた信頼や、お互いへのリスペクト。そんな店主たちの人柄と、お店や料理に向き合う姿勢こそが、地元民に愛され続ける理由なのだと思います。石見に来たら、ぜひ訪ねてみてください!地元民に愛されている「本当においしい」お料理に、きっと出会えます。
※こちらの記事は2026年7月公開