島根がもっと好きになる!地元編集部が見つけた島根のいいところ
VOL.31

\隠岐に漂流した新米神様と巡る!/
隠岐島前の島暮らし発見旅~案内人と巡る、隠岐・島前めぐりの旅~

\店主おすすめ!/地元民に愛される飲食店を数珠つなぎ石見
暮らす

今回、島を巡るのはこちらの2人!

ico
新米神様

神様になってまだ日が浅い、都会育ちの新人。神在月のため出雲大社を目指していたが、まさかの漂流の末に隠岐へ。素直で好奇心旺盛、島のあらゆることに驚き、感動するタイプ。

ico
たかはしさん(案内人)

隠岐島前が大好きな女性。浜辺を散歩中に神様を発見し、島を案内することに。人懐っこい笑顔が魅力で、島の知識が豊富。神様と島を巡りながらも、隠岐島前の魅力を再発見するのを楽しんでいる様子。

西ノ島の浜辺に、神様が漂着!?
―まさかの漂流からはじまった、隠岐・島前ひとめぐりの旅―

バシャン、という波の音で目を覚ますと、そこは知らない浜辺でした。

いたた……。ここは、どこだ?

都会育ちの新米神様は、状況を理解するまでに、しばらく時間がかかりました。
そこへ、散歩中のたかはしさんが声をかけます。見慣れない格好の人が浜に倒れている、というだけでも十分驚くはずですが、たかはしさんは意外と落ち着いた様子です。

(この人誰だろう……?大丈夫かな……?)

……あの、すみません。ここって、出雲ですか?私、出雲大社を目指していたんですけど。

え、出雲大社?ここ、隠岐ですよ。島前(どうぜん)っていって、海士町・西ノ島町・知夫村っていう3つの島があるところです。

ええええ!隠岐!?知らない場所だあ!!
神在月の会議の下見に行くはずだったのに、まさか漂流してしまったのか……。

それは大変でしたね……。でも、せっかく流れ着いたんだから、島、案内しましょうか?

いいんですか?右も左もわからない身なので、本当に助かります!!

散歩コースを少し延長するだけですから、お気になさらず(笑)。

困り果てていた神様にとって、それはまさに一筋の光でした。予定にはなかった、隠岐・島前めぐりの旅が、こうして始まったのです。

青とあいら(西ノ島町・海鮮丼と寿司)

まずは、腹ごしらえということで、浜を後にした2人が最初に向かったのは古民家を改装してオープンした「青とあいら」です。大将がその日一番おいしい魚介を海鮮丼や寿司で提供する、地元でも評判のお店です。

運ばれてきたのは、これでもかというほど魚介がのった海鮮丼でした。

これが海鮮丼!こんなにネタがのっているものを見たことがありません!!
ではさっそくいただきます!これは……!身がしっかりしていて、それぞれの魚介の甘みをしっかり感じます。

そのおいしさに驚く神様の様子を見て、厨房から大将が顔を出しました。

お、嬉しいこと言ってくれるね。今日は特に良い魚が入ったんだよ。

本当においしいです。都会で食べていたものとは、まったく別物です。

ありがとう(笑)どんどん写真も撮ってよ。

お店の名前もすごく素敵ですね。「青とあいら」って、どういう意味なんですか?

「青(あお)」は、ここから見える海の色から。「あいら」は息子の名前なんですよ。

温かくておしゃれな、素敵な由来ですね!

このお店、もともとは28年前に「鮨あいら」として始まったんですよね?

そうそう。息子が3歳の頃に始めた店で、2年前にこの古民家をリフォームして「青とあいら」として再オープンしたんです。

ここ、夜も営業されてるんですか?

はい、夜はコースだけなんですが、宿泊のお客様と一般の予約のお客様で、お料理の内容を少し変えているんですよ。

泊まることもできるんですか!?

ぜひ夜にもいらしてください。じゃあ、ゆっくり食べてってね。

大将が厨房へ戻ったあと、2人は残りの海鮮丼を味わいます。

こんなに贅沢な一皿、都会ではなかなかいただけません。ネタの種類も多くて、最後まで楽しめました。この島では、魚を食べるだけでこんなに幸せな気持ちになれるんですね…

生きている魚を、その日のうちにいただく。当たり前のようで、実は贅沢なことなんですよね。

今回紹介したお店の情報はこちら▼
青とあいら
〒684-0211 島根県隠岐郡西ノ島町浦郷211-1
TEL:090-7540-0547

島前でたった1つの信号機

お腹が満たされたところで、たかはしさんが神様を連れて行ったのは、なんの変哲もない交差点でした。

ここ、島前で唯一の信号機なんです。

唯一……?島にある信号機はこの1つだけなんですか?信号なんてどこにでもあるものだと思っていました。

実はこれ、交通量を調整するためのものじゃなく、島の子どもたちが進学や就職で本土に出たとき、信号の意味や渡り方がわからないと困るから、っていう理由で置かれている、とも言われているんですよ。

そんな理由があったんですね。ただの機械だと思っていましたが、これは島の大人たちからの子供への「愛」そのものかもしれませんね。

大げさですよ(笑)。でも、そう言ってもらえると、なんだか嬉しいです。私も子どもの頃、ここで信号の渡り方を教わった記憶があります。

たかはしさんも、この信号機に育てられた一人なんですね。

断崖絶壁「摩天崖」

信号機を後にして、摩天崖へ向かっていた道中のこと。2人の行く手を、思わぬものが遮ります。
なんと、道のど真ん中に、一頭の馬が悠然と立ち尽くしていたのです。

な、なんですかこれは!道の真ん中に、馬が……!

ああ、たまにあるんですよ。この辺りの放牧地の馬が、道路まで出てきちゃうことが。

避けてくれる様子が全くないのですが、どうしましょう……。

向こうも急かされるのは苦手なので、ゆっくり待つのが一番です。

ただじっと待つたかはしさん。神様はその落ち着きぶりに感心しながら、馬をじっと見つめていました。

こんなに堂々と道を占領されると、なんだか怒る気にはなりませんね。

数分待てば、自分から離れていってくれますよ。

言葉のとおり、馬はしばらくすると道端の草むらへとよけていきました。

島で暮らしていると、こういう『人間中心じゃない時間』に何度も出会うんですよ。それも含めて、隠岐らしいところです。

島の主役は、時に神様でも人間でもなく、こうした放牧の動物たちなのでしょう。
草を食む馬に見送られ、ようやくたどり着いたのは、西ノ島を代表する景勝地・摩天崖。国賀海岸に切り立つ断崖絶壁で、崖の上には牛や馬が放牧されていることもあるという、隠岐ならではの景色が広がります。さきほどの馬も、もしかしたらこの牧草地の仲間だったのかもしれません。

ただ、この日はあいにくの深い霧。断崖の全貌は、白い霞の向こうに隠れてしまっていました。

【摩天崖晴天時 引用:隠岐の島旅(一般社団法人隠岐ジオパーク推進機構)】

晴れていたら、本当にすごい景色なんですけどね……今日はちょっと残念でした。ここ、昔から牛や馬をこうして放牧してるんですよ。

こんな断崖の上で、当たり前のように生活が営まれているなんて、すごいです。

強い潮風に煽られながら、神様はしばらくその場を離れられずにいました。

漂流したときは絶望しかありませんでしたが……こんな景色や、動物たちに出会えるなら、悪くない一日かもしれません。

そのポジティブさ、さすが神様ですね(笑)。

それにしても、この崖を渡る風、都会のビル風とはまるで違いますね。潮の匂いが混ざっていて海を感じます!

今日は特に風が強いので、写真を撮るときは帽子や軽いものが飛ばされないように気をつけてくださいね。

今回紹介した場所の情報はこちら▼
摩天崖
〒684-0303
島根県隠岐郡西ノ島町美田
TEL:08514-7-8888(西ノ島町観光協会)

内航船で海士町へ

西ノ島を満喫した2人は、内航船「どうぜん」に乗り込み、海士町へと移動します。甲板に出ると、潮風とともに視界いっぱいに広がる群青色の海。

島前は3つの島でできてるので、移動は基本、船なんですよ。飛行機よりよっぽど乗る機会多いかも。

水しぶきと潮風が気持ちいですね!はやいはやい!

こぼれ話
島の生活の足「フェリーどうぜん」「いそかぜ」

内航船「フェリーどうぜん」「いそかぜ」は、観光客だけでなく、島の人たちの通勤・通学・買い物にも使われる大切な生活インフラです。時間帯によっては、学生服姿の高校生や、買い物帰りのお年寄りと乗り合わせることも。旅行者にとっての「絶景クルーズ」は、島の人にとっての「日常の足」でもあるのです。

Entôのジオラウンジ・Geo Room “Discover”

海士町に到着した2人が向かったのは、隠岐ユネスコ世界ジオパーク泊まれる拠点「Entô(エントウ)」。館内には地球の成り立ちを体感できる展示室「Geo Room “Discover”」と、島前の景色が一面に広がる「ジオラウンジ」があります。
今回は、Entôのスタッフの方に案内していただきながら、Geo Room “Discover”を見学しました。

ここ、島の地形がどうやってできたのかを、じっくり学べる施設なんです。

化石や地層の展示を前に、神様は数百万年という時間のスケールに圧倒されました。

この島、私より年上……?長く生きてきたつもりでしたが、大地が刻んできた時間の前では、まだまだ若輩者ですね。

神様にも、かなわないものってあるんですね(笑)。

私が生まれるずっと前から、この景色はここにあったんですね……なんだか、しみじみしてしまいます。さっきの摩天崖も、この入り江も、もともとは全部同じ大地だったんですね。

そう考えると、今日1日で見てきた景色や隠岐というものが、一つながりに見えてきますよね。

【Entō客室(NEST WA) 写真提供:株式会社海士】
こぼれ話 泊まれるジオパーク拠点

Entôは展示施設だけでなく、実際に宿泊できるホテルとしての機能も持っています。島の景色を眺めながら、ジオパークの世界観に包まれて一晩過ごす、そんな旅の楽しみ方もできるのが魅力です。

今回紹介した施設の情報はこちら▼
Entô(エントウ)
〒684-0404
島根県隠岐郡海士町福井1375−1
TEL:08514-2-1000
Geo Room “Discover”は入場無料/菱浦港から徒歩約3〜5分

海士びらき(海上綱引き)

Entôを出て向かった先は、レインボービーチ。ちょうど「海士びらき」という祭りの真っ最中でした。目玉は、海上に浮かべた足場の上で綱を引き合う「海上綱引き」。4人対4人、体重移動とバランス感覚だけが頼りの、なんとも珍しい競技です。

え、海の上で綱引き……!?そんな競技、見たことも聞いたこともありません!

これぞ海士町の名物イベントなんです。せっかくだから、このイベントを主催している観光協会の石川さんに話を聞いてみましょうか。

こんにちは。

こんにちは。あの、海の上で綱引きというのは、いったいどういったものなのですか?

海士びらきの海上綱引きは、島の夏を代表するイベントなんですよ。2009年から、本家・美保関の協力のもと始まりました。もともとレインボービーチって人工的に作られたビーチなんですが、それができた時のお披露目イベントとして始まったと聞いています。コロナで一度中止になって、3年前に再開したんですけど、以前やっていた人たちがコロナの間にほとんど入れ替わってしまって。知ってる人が誰もいなくて、みんな手探りで「こんな感じだったかな」って、今の形で再スタートしたんです。

当時を知らない方たちで、ここまで戻したのですか。すごいですね!
随分たくさんのチームが参加されていますが、今回は何チームが参加しているんですか?

3年前、今の体制で再スタートした時は16チームだったんです。去年は24チームまで増えて、今年は応募が多すぎて、28チームに絞らせてもらいました。今年からは、島前のほかの島や島後からの島外チームにも参加してもらえるようになったんですよ。

3年で28チーム!それだけ集まると、準備も大変じゃないですか?

実は今回、申込フォームに連絡先を書いてもらう欄を入れ忘れてしまって(笑)。大ピンチだったんですが、観光協会のみんなに聞いたら、全員がどこかのチームのメンバーと知り合いで、無事に全チーム連絡が取れたんです。

連絡先なしで、全チームに届いてしまうとは……!

本当に、島外のチームまで繋がっているとは思わなくて驚きました。隠岐ならではだなと思います。

驚いたということは、石川さんはもともと島の方ではないのですか?

はい、実は移住してまだ1年半くらいなんです。群馬出身で、ずっと都会で働いていたんですが、ニュージーランドにワーキングホリデーへ行って、大自然の中で伸び伸び働くうちに『田舎に帰ろう』と思って、転職活動をしてこの島に来ました。

移住して1年半で、もう祭りの運営を回しているんですね。チームの参加者には、どんな方が多いんですか?

年齢層が本当にバラバラなのが特徴で。60代の地元のおじいちゃんと20代の若い子が同じチームということもあれば、会社の上司と部下で構成されたチームもあります。それがこの大会ならではの面白さかなと思っています。

この大会で、みんなが盛り上がるポイントって、どんなところなんですか?

実は、勝ったチームより負けたチームの方が盛り上がることが多いんです。海に落ちる姿がおもしろいと、観客も一緒になって『うおー!』って沸くので、優勝賞金より『面白く負けたい』っていう人の方が多いくらいで(笑)。

賞金より、面白さを取るんですね!

声を掛け合いながら足場の上でせめぎ合う参加者たちの熱気に、神様もいつの間にか夢中で声援を送っていました。綱の握り方ひとつにも駆け引きがあり、引き手が一直線に並ぶか、交互に並ぶかで戦略が変わってくるのだとか。バランスを崩して海へ落ちる選手が出るたび、ビーチ全体がどっと沸きます。

勝ち負けだけじゃなく、この場の空気をみんなで楽しんでるんですね!

そう、それが海士町なんです。この熱気を、ぜひ多くの人に知ってもらいたいですね。

こぼれ話 観光協会にも多くの移住者が

実は海士町観光協会のスタッフの多くが、島の外からやってきた移住者なのだそうです。海士びらきのような手作りイベントを、外から来た人たちが手探りで育てている、というのも今の海士町らしい一面です。

今回紹介した情報はこちら▼
会場:レインボービーチ(島根県隠岐郡海士町)
主催:海士町観光協会 荒天時は開催日程が変更となる場合あり。参加・観覧については海士町観光協会へお問い合わせください。
TEL:08514-2-0101

宇受賀命神社(うづかみことじんじゃ)

綱引きの熱気も冷めやらぬまま、最後に訪れたのは宇受賀命神社。隠岐に古くから伝わる神様が祀られている、由緒ある神社です。田んぼの中に佇む鳥居は、稲が育った夏から秋にかけて特に美しい景観をつくりだします。

ここは隠岐の土着の神様が祀られてる神社なんです。せっかくだから、ご挨拶していきましょう。

大先輩へのご挨拶……身が引き締まります。ところで、ここはどんな神様が祀られているんですか?

宇受賀命という神様なんですが、実はこの神社、平安時代に編纂された延喜式神名帳っていう格式の一覧に載っていて、出雲大社と同じ『名神大社』という最高ランクに位置づけられているんです。

え!出雲大社と同格!?それは、より一層背筋が伸びますね……。

しかも、ここには面白い言い伝えもあって。宇受賀命と、もうひとりの神様が、ある女神をめぐって力比べをしたそうなんです。

神様同士の力比べ!それで、どちらが勝ったんですか?

勝ったのは宇受賀命の方。その女神は、勝った宇受賀命との子を明屋海岸という場所で産んだと伝えられているんですよ。

鳥居をくぐり、静かな境内で手を合わせる神様。都会の神社とはまるで違う、澄んだ空気が流れていました。

この島は、こうしていろんな神様や人を、静かに迎え入れてきたんですね。漂流者の私も、温かく迎えてもらえました。

島の人も外の人も、分け隔てなく、ですね。神様同士も、案外にぎやかだったのかもしれません。

今回紹介した神社の情報はこちら▼
宇受賀命神社
島根県隠岐郡海士町大字宇受賀747
菱浦港より車で約15分

島を巡ってみて

結局、出雲大社へはたどり着けなかった新米神様。それでも、島の食、絶景、行事、動物、そして人との出会いを通して、隠岐・島前の魅力をたっぷり味わうことができました。

神在月の本番は出雲ですが……この島のことも、誰かに話したくなりました。海鮮丼のおいしさも、摩天崖の絶景も、道の真ん中の馬のことも、綱引きの熱気も、宇受賀命神社の言い伝えも、全部忘れられません。

漂流から始まった旅にしては、盛りだくさんでしたね(笑)。

本当に。こうして島を巡ってみると、大自然の中の暮らしの一つひとつに理由があって、人と人、動物と人、神様と人がちゃんとつながっているんだと実感しました。

私たちにとっては当たり前の景色でも、外から来た人にそう言ってもらえると、あらためて島の良さに気づかされますね。

次に来た時も、たかはしさんに案内してほしいです。

もちろんです。その時は、キンニャモニャ踊りもお見せしますね。

道に迷ったからこそ出会えた、隠岐・島前の景色や人や食べ物。神在月の本番を前に、少し変わった形で島根の魅力を再発見できた一日でした。島ならではの景色や人との時間を、あなたも堪能してみませんか。

※記事内の場所につきましては、確認を行った上で撮影をしております
※こちらの記事は2026年9月公開

■タグ
暮らす
■シェアする!

オススメ記事Recommended Articles

島根のイイところ編集部Editor

くらしまねっと 島根のイイところ編集部 まつだ
島根のイイところ編集部まつだ

雲南市出身の編集部スタッフ。
自然に囲まれて育ち、今でも落ち着くのは山や川のある風景です。
趣味は食べ歩きとドライブ。
休日は気になるお店に立ち寄ったり、景色のいい場所を巡ったりして過ごしています。
島根で見つけた魅力を、地元民目線でお届けしていきます!