助け合うことが
当たり前。
山間の小さな町の
心地良い暮らし。

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2020年春に邑南町で結婚した
大畠晋也さん・直子さん夫婦は、
それぞれ地域おこし協力隊として移住してきた。
2人が暮らす阿須那地区は、商店はひとつ、
小学校の全校生徒は30人ほどの山の中の小さな町。
「町の人たちは好奇心旺盛なんです!」と
2人が話す、この町の暮らしとは?

地域おこし協力隊として、
それぞれ邑南町へ。

島根県の中部にある邑南町は、2004年に旧羽須美村・旧瑞穂町・旧石見町が合併してできた町だ。大畠晋也さん・直子さん夫婦が暮らす旧羽須美村の阿須那地区は邑南町の南部、広島県に接する中国山地の山間にあり、地区の人口は700人ほど。昭和の初め頃までは牛や馬を売買した牛馬市や木炭の生産で栄え、石州瓦の古い町並みに造り酒屋や旅館、商家、神社などが並ぶ。中心を流れる出羽川は中国地方最大の川、江の川の支流で、初夏になれば蛍が飛び交う美しい川だ。大畠さん夫婦は、それぞれ地域おこし協力隊として2019年に阿須那に移住し、この町で出会い、2020年春に結婚した。晋也さんは広島からの移住で、「おおなんDIY木の学校」の事務局で働きながら古民家再生、木材振興に携わる。直子さんは松江市の出身。「ゲストハウス&カフェmikke(ミッケ)」を経営する。

「木の学校」は、空き家になっている古民家を、受講生たちが昔ながらの工法で再生する実践型のリノベーション講座だ。晋也さんはワークショップの運営やデザインを担当。ワークショップでは地元の木材や竹、土などの自然素材を使って、職人の指導のもと受講生自身の手で修繕していく。

「mikke」は築70年ほどの古民家を改修したゲストハウスで、1階はカフェと宿泊スペース、2階は図書スペース。現役の五右衛門風呂があり、直子さんが薪をくべてお湯を焚いている。「五右衛門風呂はさすがに珍しいですが、このあたりは薪のお風呂が残っている家が多くて、自宅もそう。慣れればすぐに薪に火をつけられますよ」と直子さん。布団の上げ下げなどの力仕事は、直子さんに代わって晋也さんが行っている。

シェアハウスの仲間や
家族との暮らしに
幸せを感じる。

2人の自宅は「mikke」からほど近い、元建具屋さんの建物を改修したシェアハウスだ。もともと晋也さんが友人と住んでいた家で、結婚を機に直子さんが合流した。他に3人の住民が暮らし、東京の大学の研究員、酒蔵の蔵人、世界を旅するシンガーソングライターと個性的な顔ぶれ。「新婚生活がシェアハウス!?」と驚いていると、「大きな建物ではないですが、部屋がそれぞれ独立したつくりになっているのであまり気にならないです」と直子さん。キッチンは共有だが、普段の食事はそれぞれの部屋でとるスタイル。友人が訪ねて来た時や、地域の人から食材をおすそ分けしてもらえた時など、だいたい週に1回ペースでみんなが集まってワイワイと飲んだり食べたり。晋也さんは「日を浴びて、汗をかいて、一生懸命働いた後に家族や仲間と楽しい時間を過ごして、そして寝る。これが暮らしの中での幸せ」と話す。直子さんは、生活の中での季節ごとの小さな楽しみが、ささやかな幸せ時間。「雪が積もり始めたこの季節は、薪のお風呂にゆずを浮かべるのがお気に入り。体が温まりゆずの香りでリラックスできます」。初夏になれば出羽川の鮎漁が解禁され、食卓に鮎が並ぶのが2人の楽しみ。近所の理髪店のご主人が鮎釣り名人で、季節になるとよく鮎をくれるそうだが、今年は晋也さんも鮎の投網漁に初挑戦した。「阿須那の漁はちょっと独特で、網を張って鮎が集まったところにみんなで潜って手で捕まえるんです。初めて阿須那に来た時がちょうど投網の時期で、すごく活気があった。ここで昔ながらの生活ができるとワクワクしました」と晋也さんは振り返る。自分の手で初めて捕まえた鮎は、炭で串焼きにした。「腰ぐらいの深さで、油断すると流されそうになるのですが、すごく楽しいですよ。鮎も美味しかったです!」。

昔ながらの助け合いの文化。
外の人たちも受容してくれる。

「このあたりには『手間替え』という助け合いの文化が残っていて、隣の家に醤油を借りに行くような昔ながらの人付き合いが今もあります」と晋也さん。鮎釣り名人の理髪店のご主人はネギや白菜をたくさん持ってきてくれて、「mikke」のお隣のおばあちゃんや、向いの酒蔵の蔵元家族は移住当初から何かと気にかけてくれる頼れる存在だ。狩猟をしている近所のおじいちゃんたちはよく猪肉を分けてくれて、宅配便のおじさんは名前で呼び合う間柄。地区には商店、電気屋さんなどがそれぞれ一軒ずつしかなく、「お金をもうけるというより、みんなで役割分担して支え合っている感じ」と晋也さん。直子さんは「人とのつながりが濃くて、みんなの顔がわかって安心感があります。移住する前は閉鎖的な地域だったらどうしようと不安でしたが、全然そんなことはなくて。暮らしていて居心地が良いです」と話す。

地域の人たちは、外から人が来ると「会いたい」と興味津々なのだそう。「ミュージシャンの友だちが来ると、『おじいちゃん、おばあちゃんを集めるから公民館で歌ってよ!』となるんです。みんな面白がってくれる」と晋也さん。シェアハウスの住民のミュージシャンは、阿須那に来て2週間で邑南町の一番大きなホールでコンサートを開くことになり、さらに学校でも授業をすることに。晋也さんの友人で、餃子をつくりながら全国を旅して歌うシンガーソングライターは、前回来たときは「mikke」を会場に、おじいちゃんおばあちゃんの前で歌って、餃子は過去最高を売り上げた。「山の中の集落で刺激が少ないからかもしれませんが、おじいちゃんおばあちゃんが受け入れて、楽しんでくれる。都会的な生活や娯楽を求める人には物足りないかもしれませんが、すごく暮らしやすい町です」と2人は話す。

お互いの顔がわかる、
小さな町の暮らし。

晋也さんは島根県の印象を「古い文化が残っていて趣味が良い」と話す。「実家が転勤族で、広島や石川、大人になってからは東京や大阪などいろいろなところで暮らしてきましたが、島根は奥ゆかしいというか、派手でわかりやすいものは求めていない空気」。落ち着いた色調で統一された松江の景観を見てそう感じたという。「しかも人が少ない分、お店の人がお客さんの顔を覚えてくれていて、遊びに行って楽しいです。東京や大阪ではまずないですよね」と田舎ならではの良さだと話す。直子さんも人が少ないことは決して悪いことではなく、むしろ居心地が良いという。「大阪で暮らしていたことがありますが、エレベーターで一緒になった人が同じマンションの住民かわからない、挨拶もない。ここだったら顔がわからないということはまずないですし、会えば必ず挨拶をします」。直子さんは移住して、以前よりも知り合いが増えたという。「地域の人たちがお店に来てくれて、さらにいろいろな人に紹介をしてくれて。今のほうが出会いの機会が多いです」

今後について、晋也さんは、地元のフローリング製造会社と協力して、フローリングを作る際に出る端材と、改修した空き家などから買い取った古民具や古材を組み合わせた家具の会社をつくりたいと話す。「周りにこんなに山があるのに、地元の木材はほとんど使われていません。古民家の改修や、家具づくりをしていると、もっと地元のものを使えるのではと感じます」。直子さんはそんな晋也さんと一緒に協力して、この町で生活していきたいという。「今後家族が増えても、お店は続けていきたいです。どんな形になるかはわかりませんが2人で協力して、この土地で家族みんなと、地域の人たちと楽しく暮らしていきたいです」

森田朱音さん
大畠晋也さん
直子
さん
晋也さんは工業デザイナーとして東京や大阪で働いた後、邑南町へ移住。直子さんは大阪や松江でデザインの仕事を経て、奥出雲のワイナリーで働いた後、移住。地域おこし協力隊としてそれぞれに活動をしながら、2020年春に結婚しシェアハウスに暮らす。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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