「またお前か」島根暮らしのカメムシあるある
島根で暮らし始めて、最初に「うわっ」と声が出るのは、おそらくカメムシです。
春と秋、年によっては大量発生します。しかも、彼らは静かに、どこにでも現れる。刺すわけでも噛むわけでもないのに、その存在感と、うっかり刺激したときの強烈な臭いで、多くの移住者を困らせてきました。
先輩移住者たちに聞いた「カメムシあるある」を4つ、ご紹介します。
「取り込んだタオルで顔を拭こうと思ったら、タオルの端にカメムシが。あの瞬間は声も出ませんでした」(Iターン・30代女性)
白い衣類やタオルが特に狙われやすいため、一枚ずつバサバサ振ってから取り込むのが島根流です。
「網戸を閉めてるのに、気づいたら部屋に3匹もいました。どこから入ってきたの?って毎回思います」(Uターン・40代男性)
古い住宅の網戸は隙間ができやすく、カメムシサイズなら余裕で通過してしまいます。気になる人はホームセンターの隙間テープで対策しているようです。
「最初の頃は反射的に叩いちゃって……あの臭い、手を何度洗っても3日は取れませんでした」(Iターン・30代女性)
カメムシは刺激を与えると、臭腺から強烈な臭いを放出します。絶対に潰さない。これが鉄則です。
対処法は、ガムテープでそっと背中に貼り付けて捕獲し、そのまま折りたたんで封印するのが一番よく聞く方法です。
「外壁にびっしりついてるのを見たときは、もう笑うしかなかったです。写真撮って都会の友達に送りましたよ」(松江市在住・50代女性)
山間部や古民家では、数十匹が壁に張り付いていることも。最初は絶句しますが、数年もすると「今年は少ないね」が季節の挨拶になるそうです。
カメムシは臭いし数もすごい。でも刺すわけでも噛むわけでもなく、基本はびっくり要員です。
それに不思議なもので、暮らしていると対処のコツが自然と身について、「うわっ」から「はいはい、またね」くらいの距離感になっていきます。
虫がちょっと苦手な人でも、カメムシをきっかけに虫耐性が一段階上がるかもしれません。
ここからは、もう少し手強い相手の話をしていきます。
【年間約50匹】ムカデバスター夫婦
続いてはムカデ。津和野町にIターンして12年目の山田夫妻にお話を聞きました。
2人が暮らすのは、周囲が山に囲まれた一軒家。前に住んでいた家ではそこまでだったムカデが、今の家に越してきてから一変したそうです。
早速なんですが、実際どのくらい出るんですか?
前の家は年に数回くらいだったんですが、今の家に越してきたら、もう次元が違って。少ない年で25匹、多い年は50匹近く出てると思います。
しかもピークが5月と9月にあって、その時期はもう気が抜けないです。
やっぱり湿気と関係があるんですかね?
それは間違いなくあると思いますし、5月は産卵期を迎える前で動きが活発になるタイミングらしく、そういうのが関係しているんだと思います。
山側のキッチンは室温が上がりにくいため、食材が傷みにくいなどのメリットもある一方、湿度が高くなりやすく、虫目線では好条件が揃ってしまっているんだとか。「山との距離感」と「湿気」は、家選びの重要な判断材料になりそうです。
これまでで一番ゾッとした体験って、何ですか?
やっぱり、夜寝ているときに、足の上を這われた時ですかね。もさもさもさっという感触があって、布団をはぐってみたらめちゃくちゃ大きなムカデが出てきたんです。
僕は唇を噛まれたことがありますよ。ある日、悪さをした人を捕まえようとしている夢を見ていたのですが、そいつが顔を殴ってきて、「痛いっ!」と思って起きたら、ムカデに唇を噛まれてました(笑)
笑い話にしてくれていますが、寝ている最中に顔を噛まれるというのはなかなかの恐怖体験です。
ちなみに、寝るときは何か対策しているんですか?
私と子どもは蚊帳です。もう蚊帳なしでは寝られなくなりました。
文字通り、僕だけ蚊帳の外です。
ちなみに、ムカデは子煩悩で寿命5〜10年。去年捕まえ損ねた個体と今年リベンジマッチしている可能性もあるそう。しかも一晩で100m以上移動するというから、庭にいたムカデが翌朝キッチンにいてもおかしくありません。
12年かけて編み出した、山田家のムカデ対策
―あらゆる情報源を漁り尽くしてきた山田家の対策は、まるで要塞のような徹底ぶりでした。
効果があったものから聞いてもいいですか?
一番頼りにしてるのは、壁に塗る薬剤ですね。神経毒のタイプを月に1回施工してます。
薬剤にもいろいろ種類があるんですよ。食べさせて駆除するホウ酸系とか。
あとは全窓に網戸+養生テープで隙間を完全に塞いでます。それと、ホームセンターの火ばさみを全部の部屋に常備してます。ムカデって俊敏なので、出た瞬間に対応できないと意味がないんですよ。
逆に、あまり効かなかった対策はありますか?
ニオイで寄せ付けない系のやつは全体的にイマイチでしたね。ネットでよくおすすめされてるんですけど、うちの環境では正直効かなかったです・・・。
ここまで対策を積み重ねて、ムカデの数は変わりましたか?
年々対策をアップデートしているので、減ってきています! でも、ゼロにはならないですね(笑)。
やっぱりどこかしらの隙間から入ってくるんだと思います。今でもムカデは苦手なんですが、こうやって様々な対策を試すのがゲームみたいで楽しくなってきています。
最後に、虫が気になって移住を迷っている人に伝えるとしたら?
正直、虫が絶対に無理っていう人は覚悟がいると思います。出るものは出るので。でも"できれば遭いたくないな"くらいの人なら、対策をすれば全然やっていけますよ!
それに、田舎って言ってもいろいろあるんですよ。市街地に近い場所もあれば、うちみたいに山が目の前の場所もあって、虫の出方も全然違うんです。自分の性格とか価値観に合う"田舎の程度"を見つけるのがいいのかなって思います。
虫との距離感も、場所によって選べるということでしょうか。
そうなんです。もし移住後の虫問題が気になるなら、梅雨時季にトライアルで住んでみるのが良いと思いますよ。虫が本格的に動き始めるタイミングなので、自分がどこまで許容できるか、一番リアルに分かります。島根の良いところだけを見てしまうと、そりゃ最高なんですけどね(笑)。
ちなみに、お子さんは虫、平気ですか?
うちの子は完全に慣れてますね。カブトムシとかクワガタとか、都会じゃなかなか会えない虫が普通にいるので、夏は毎日大騒ぎですよ。虫かごが足りなくなるくらい(笑)。
大人が嫌がりがちな虫も、子どもにとっては全部遊び相手なんですよね。それを見てると、虫が近い環境も悪くないなって素直に思います。
—虫は確かに出るし、対策に手間もかかる。でも「ゲームみたいで楽しくなってきた」と笑う山田夫妻を見ていると、向き合い方ひとつで暮らしの景色は変わるんだな、と感じました。
そしてもうひとつ。虫取り網を持って走り回るお子さんの話を聞いていると、虫が身近にいる環境は「怖い」だけじゃなく、子どもにとっては最高の遊び場でもあるんだと思わされます。
苦手な虫はいても、好きな虫ができる日が来るかもしれない。島根の虫事情は、対策を前提にすれば“ちょっと面白い暮らし”に変わっていくのかもしれません。
軒下の"ハチの巣"-セルフ駆除の一部始終
―続いてはハチ。しかもスズメバチです。お話を聞いたのは、松江市の住宅地に住む高尾さん。雲南市出身で、子どもの頃からゴリゴリの田舎育ち。害虫は自分で駆除するのが当たり前という環境で育ち、Uターンで島根に戻ってきた今も、虫への耐性はかなりのものです。現在は山間部ではなく、わりと街なかで暮らしています。
そんな高尾さんの家の軒下には、過去に駆除された古い巣の跡が残っていたそう。一度営巣した場所は狙われやすいと知っていたものの、ある日ふと見上げると、見慣れない物体がくっついていたといいます。
見慣れない物体、というと?
逆さにした徳利みたいな形のものが、軒下にくっついてたんです。スズメバチの巣っていうと、あのマーブル模様の大きいやつを想像すると思うんですけど、あれは完成形なんですよ。
最初は女王蜂が1匹で巣を作っていて、その段階だと逆徳利みたいな形をしてるんです。そこから働き蜂が羽化すると入り口部分をかじり落として球状になって、どんどん大きくなっていくようです。調べてみると、コガタスズメバチの巣で、私が見つけたのはまだ女王蜂1匹の段階でした。
実は初夏頃から、大きめのハチが1匹で飛んでいるのを何度か見かけていて、「巣を作り始める時期だな、近くにできたら嫌だな」とは思ってたんですけど・・・まさかうちの軒下とは。
―ここからの展開が、なかなかです。
さすが、非常にお詳しいですね・・・
ちなみに、見つけた時、最初にどう思いました?
「形からして、まだ女王蜂だけのはず」「でも時期的に、最初の働き蜂がいつ羽化してもおかしくない」ってことは、今なら1匹。勝てる。今のうちに落とそう、と。
そのままドラッグストアに行って、スズメバチ対応の噴射距離が長い殺虫剤を買ってきました。
で、巣の入り口に向けて、時間を置きながら何回か噴射したんです。
正直、中の女王蜂が死んだかどうかは分からなかったんですけど、「もういくしかない」と思って、角材で巣を叩いて下半分を壊して、もう一回スプレーして、最後に根元からこそいで全部落としました。
たくましすぎる(笑)一連の流れが完全に駆除業者ですね。
意外と頑丈で苦労しましたけどね(笑)。落とした巣を割って中を確認したら、サナギが十数個入ってて。あと1週間発見が遅かったら働き蜂が羽化してただろうし、そうなったらさすがに手は出せなかったと思います。タイミングがよかっただけですね。
女王蜂が1匹の段階で見つけ、巣がまだ小さいうちに判断し、その日のうちに駆除を完了。スピード感もさることながら、巣の形状から状況を読み取れる知識があったからこそできた対応です。雲南市育ちの虫リテラシー、恐るべし。
痛快なエピソードではありますが、最後にひとつ大事なことを。
話だけ聞くとそんなに難しそうではないんですけど、他の人にもおすすめできますか?
いや、おすすめはしないです(笑)。私は田舎育ちで虫に慣れてるし、巣の段階とか時期もたまたま判断できたからよかっただけで。スズメバチは刺されたらアナフィラキシーショックの危険もありますし、普通は業者さんに頼んだ方がいいです。
結果的にうまくいったから笑い話にしてますけど、人にはすすめられないですね。
―スズメバチは、正直「気合いでどうにかする虫」ではありません。だからこそ島根県は、相談窓口や対応体制がちゃんと用意されているのが心強いところ。
松江市をはじめ多くの自治体に相談窓口がありますので、無理せず頼るところまで含めて"島根の虫対策"です。
とはいえ、「1匹なら勝てる」と即断してドラッグストアに走る高尾さんのたくましさは、ちょっとだけ見習いたいところです。
最後のエピソードは、ハチともムカデとも違うタイプの恐怖です。
【戦慄】バッタで目が覚める夜
―隠岐の島にIターンしたNさん。東北地方出身で、旦那さんの移住をきっかけに島暮らしをスタートしました。実家も農村地帯で、もともと虫が特別苦手だったわけではなかったそうですが、実家の近くの虫と隠岐の虫は「質が違った」と言います。
なかでも、一番衝撃を受けたのが移住1年目の秋。
5月に生まれたばかりのお子さんを連れて、7月に隠岐の島へ。最初に住んだのは、山がすぐ近くに迫っている家で、夏を越えて秋に差しかかると、秋の虫たちが一斉に家の中へ入り込んできたんだそうです。
秋の虫って、具体的にどんな虫だったんですか?
コオロギとかバッタが、夜になると家の中に入ってくるんですよ。で、寝てると体の上に乗ってくる。ぴょんぴょんって。
え? 寝ている間にぴょんぴょん??
しかも毎晩です。子どもと一緒に寝てるんですけど、なにかが体の上で動いてるなと思って、携帯のライトで照らしたら体の上でコオロギやバッタが跳ねていて、まるで全身の毛が逆立つような感覚になりました。
―暗闘の中、スマホのライトに浮かび上がるバッタたち。映像として想像するだけでなかなかのインパクトですが、これが移住1年目の秋、毎晩繰り返されていたというのだから驚きです。
当時、なにか対策はされてましたか?
対策というか・・・もはやサバイバルでしたね。車の中で寝てみたり、ソファーの上で高さを取ってみたり。お試し住宅に泊まらせてもらったり、義理の祖父の家に転がり込んだ時期もありました。
今思うとよくやってたなと思います(笑)。人に相談しても「島にいたら普通だよ」「これでダメなら厳しいよ」って返されて、あ、ここでは私の方がマイノリティなんだなって(笑)。結局、自分でどうにかするしかないんだなって悟りました。
それからいろいろなところに相談をして、町営住宅に引越したんですが、びっくりするくらい虫が出なかったです。
築年数が新しいからか、虫がほぼゼロでした。"虫が出ないのが当たり前"の生活が戻ってきた時は、ちょっと泣きそうになりました。(笑)
―ちなみに、現在は義理のおじいさまの家の近くで暮らしているNさん。最初の1年はアリに悩まされ、侵入口を見つけてはコーキングで塞ぐ日々を半年間続けたそう。
お子さんがアリを見つけるのが上手くなったらしく、「私よりも上手に見つけてくれるんですよ」と笑っていました。
5年間で何度か引っ越しを経験し、虫が出る家と出にくい家の両方を知っているNさんに、これから移住を考えている人へのアドバイスを聞きました。
家選びで「ここだけは見ておいた方がいい」というポイントはありますか?
家に虫が出ることを極力避けるなら、山の影になっている場所は避けた方がいいです。日が当たらなくて湿気がこもるところは、やっぱり虫が多いんですよね。
あと、入居前に大家さんに虫についての情報を聞いておくのもおすすめです。
それと、住まいの話ではないんですが、害虫対策グッズは規定量の倍くらい買っておいた方が安心でした。わたしが住んでいる隠岐の島は海風がすごいので、薬剤がすぐ飛んじゃうんですよ。
虫が多い環境って、子育て的にはどうですか?
大変は大変です(笑)。でも子どもは意外と平気で、虫を見つけると追いかけたり、捕まえようとしたりするんですよ。
アリも、私より先に見つけて「いた!」って教えてくれるくらいで。見つけた虫を観察してたりして、本人はけっこう楽しそうです。
築年数が新しい物件を選ぶ、というのもやっぱり有効ですか。
かなり大きいと思います。もし築浅な好物件がなかったら町営住宅もありだと思います!
町営住宅は県が運営していてリフォームも定期的にされているので、壁の隙間が少ないんですよね。年に何回か募集もかかっているので、移住のタイミングで相談してみる価値はあると思います。
―都会みたいに「高層階を選べば虫は来ない」なんて手段は、島にはありません。選べる物件の数だって限られます。ただ、Nさんの話を聞いていて思ったのは、選択肢が少ないなりの"見るべきポイント"はちゃんとあるということ。築年数、山との距離、風通し。そのあたりを押さえておくだけで、虫との遭遇頻度はだいぶ変わってくるようです。
虫は正直、対策が必要です。でもその一方で、子どもは虫を追いかけたり捕まえたりしながら、自然の中で遊び方を覚えていく。大人が「うっ」となるものを、「見て見て!」に変えてしまうんですね。
対策は欠かせないけれど、虫が身近だからこその"楽しさ"もちゃんとある。そこが島根暮らしの魅力のひとつなのかもしれません。
虫がいても、島根暮らしは楽しい
カメムシに驚き、ムカデと戦い、ハチの巣を落とし、バッタで目が覚める。文字にすると強烈ですが、今回話を聞いた全員が、島根暮らしを楽しみ、移住したことに満足していました。対策は先輩たちが山ほど試してくれているし、慣れるという声も多い。虫が関わる暮らしは大変なこともあるけど、悪いことばかりじゃありません。
まずは気軽に、一度遊びに来てみてください。島根の虫たちも、きっと歓迎してくれます。
※こちらの記事は2026年4月公開