誰もが、誰かの、たからもの。 LIFE STYLE 11 パラレルワーク

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人の温かさが心地よい。
関係性を土台に
自分らしいあり方を実現

島根に暮らす魅力的な人たちに惹かれて
埼玉県から松江市に移住した桐山尚子さん。
地域おこし協力隊の活動の中で見つけたのは「人との関係性」を土台にした仕事。
スキル重視の都会ではできない、
島根だからこそできる働き方がスタートした。

「ここで暮らしたら人生変わるかも……」。2014年、旅行で初めて訪れた島根県で、観光地を巡りながらふと感じたと話す桐山さん。当時は東京都内の商社で働き、20代で部長職に抜擢。20人ほどの部下を持ち、多忙な日々を送っていた。

転機になったのは2015年。ハードワークのあまり体調を崩し、会社を退職。職業訓練校でWebデザインを学びながら新しい生き方を模索する中で、地方への移住を意識するようになった。

そんな時に思い出したのが、島根での不思議な感覚だ。移住関連のイベントやフェアに足を運ぶたびに、島根の人たちに魅了され、徐々に移住の決意が固まっていった。「島根の人は奥ゆかしさの中に情熱を秘めていて、地域の笑顔を増やしたいという熱い想いをひしひしと感じたんです。それがとても新鮮で、同時に安心感と心地よさをおぼえました」。その後、ご縁があり2017年春、松江市の地域おこし協力隊(地域資源活用コーディネーター)に着任した。

「東京だと『何ができるか』とスキルや経験を重視されがちですが、島根の人たちは人間性や可能性にも目を向けてくれました。だから特別なスキルや経験がない私でも、新天地で新しいことに挑戦しながら人生を歩んでみたいと思えたんだと思います」

地域おこし協力隊には、活動内容が決まっている「ミッション型」と、隊員自身が地域の課題やテーマを見つける「フリーミッション型」がある。桐山さんが就任した当時、松江市地域資源活用コーディネーターは後者。「地域のことを知ってからテーマを決めよう」と、いろいろなことに挑戦した。お土産の商品開発や販売、農家などの一次産業の情報発信、先輩隊員の手伝い……。しかし「これだ!」と思うものが、なかなか見つからない。「最初の1年半は方向性が決まらず、人間関係にも悩み、苦しかった。この時期を乗り越えられたのは友人や仲間たちが救い出してくれたおかげなんです」

改めて自分自身を振り返ると、ワクワクする瞬間はいつも人の熱い想いに触れた時だった。「モノよりも、人の想いに自分の心は動かされる」。そう気づいたタイミングで誘われたのが「古民家活用型 多創造複合施設 SUETUGU」のプロジェクトの立ち上げだ。

SUETUGUは「チャレンジを応援する場」をコンセプトに、シェアオフィスやチャレンジカフェ・ショップなどを兼ね備える施設。代表の想いやコンセプトに共感した桐山さんは、協力隊の仲間や地域の人たちと一緒に築100年を超える古民家を自分たちの手で改装するなど、立ち上げに深くかかわった。「この取り組みをきっかけに、モノ軸から人軸へと活動分野をシフトすることができました」と、今の活動の原点になったと語る。

2020年3月に地域おこし協力隊の任期を終えて、現在、桐山さんは大きく分けて3つの仕事に軸足を置いている。1つ目は松江市のシティープロモーションMatsue10,000人プロジェクトや、島根県の魅力発信プロジェクトCraftsmanʼs Base Shimaneなど、人に焦点を当てた地域のプロモーション活動。2つ目は「SDGs de 地方創生」公認ファシリテーターや講師などのSDGs普及活動。3つ目はライフデザイナーとしての活動。これはイベントや学校などで自身の移住体験などを語り、一人ひとりが自分の暮らしをデザインするきっかけづくりを行っている。

「スキルや経験重視の都会と違い、人とのつながりをベースに仕事ができる島根だからこそ、パラレルワークという働き方を選択できました」と桐山さん。パラレルワークという働き方を決めたのは、協力隊の卒業間際だった。「一見、バラバラのことをしているように見えるかもしれませんが、人との関係性を土台にインクルーシブな未来に向けたきっかけをつくる人でありたいという点ではブレていない。“やり方”ではなく“あり方”を考えた時にしっくりきたのがパラレルワークという働き方でした」。

桐山さんの仕事の原動力になっているのは、純粋に相手のことが好きで、力になりたいという気持ち。これまで出会ってきた人とは肩書や利害を抜きに、一個人として関係を築いてきたから、プロジェクトが終わってからも関係が続いている。「みんなの顔を見たくて会いに行っています。ただいまと言える安心できる場所がいくつもあるんです」と優しく微笑む。

桐山さんにとって、街の中で働きながら、身近に自然を感じられる松江の暮らしは今の自分に最適だという。毎月、月初めは熊野大社にお参りして澄んだ空気の中で気持ちを整えたり、日頃から宍道湖畔の広い空の下、のんびりリフレッシュしたりしている。「就業時間や休日は自分次第。働き方や暮らし方を自分に合った形にカスタムメイドできるんです」とパラレルワークならではの利点を話す。

しかしパラレルワークを始めた当初は、多くの人の気持ちに応えようと無理をしすぎたこともあったという。そんな時に元気づけてくれたのは、今まで出会ってきた大好きな人たち。改めて、人とのつながりや、お互いを想い合える関係の大切さを気づかせてくれた。「島根には、自然体でいられる安心感がある。それは人の温かさや自然の雄大さを日々感じられるからだと思います」。

最近は関係性を深めたり、質を高めたりすることに重点を置くようにして、バランスもとりやすくなってきた。今後は趣味の森林浴やアート鑑賞、温泉めぐりをしたり、大好きな人たちと美味しいご飯を囲んだりしながら暮らしの余白も彩っていきたいという。そして、多様な人との出会いをきっかけに地域のインクルーシブな未来につながるプロジェクトが生まれることを楽しみにしている。「この数か月でようやく肩の力が抜けて、少ししなやかになれました」と爽やかに笑う桐山さん。島根だからこそ実現できる自分らしいあり方を、少しずつ形にしようとしている。

桐山 尚子さん
桐山尚子さん
埼玉県越谷市出身。東京都での貿易関係の仕事を経て、2017年4月、松江市の地域おこし協力隊に着任。3年間の任期を経て、2020年に個人事業主として「KiriN Design」を立ち上げてパラレルワークをスタート。人に焦点を当て、地域活性や未来づくりに取り組む。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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