時間の余裕は
心の余裕
余白を楽しむ
松江暮らし

SCROLL

水の都「松江」。
京都や金沢のようなきらびやかさこそないが、
大名茶人・松平不昧公のおかげで、
独自の茶道や食文化が息づいている町である。
そこにIターンしてきた原周右さんは、
相棒のクロスバイクとともに、
自分のペースで松江生活を楽しんでいる。

ニュータウン育ちの
日本の歴史大好き人間

 「歴史がある松江の暮らしは居心地いいです」と話すのは島根大学の大学教育センターに勤める原周右さん。島根大学で地方と首都圏の大学生交流事業を行うために3年前、松江にIターンしてきた。
 原さんは筋金入りの歴史好きで、子どものころから大河ドラマや時代劇などを好んで見ていたそうだ。そんな原さんは意外にも大阪府堺市にあるニュータウン育ち。スマートな街で暮らしていたのだが、子ども心に「歴史のない街」にどこか違和感を感じていた。
 その「違和感」はずっと続いた。最初の就職はビルの設備会社。営業、開発管理などを行っていた。ビルが立ち並ぶ街中にはアピールだらけの広告や建築物。自分に向かって必要以上に圧が放たれている感覚がする。「疲れる…」、そう疲れてしまったのだ。大阪のど真ん中、とあるビルのエスカレーターに乗っているときに、脱サラをして地元を離れる決心をした。

文化度の高さが
心の余裕をもたらす

 松江には古い神社や寺もたくさんあり、神話や怪談もある。それにお茶文化が息づき「文化=生活」が当たり前となっている。特に松平不昧公が好んだ茶室が好き。よく茶室を訪れ一服する。シンプルな造りの中に技と贅を尽くした空間。「分かっている人が分かってくれればいい、別にわからなくても心地よければそれでいい」。押し付けず、受け手の感性に身を任せた不昧公の思想は自分にしっくりくる。
 「やはり松江城が現存していることがスゴイことだと思います。残そうと思った人たちのおかげで、今でも町割りや町名も当時のまま。歴史があり、文化が息づくからこそ、余裕があり品のある大人の人が多い町だな!と思っています」と原さんは言う。

時間に自由があると
好きなことができる

 田舎は車が必須というが、原さんは車を所有していない。生活圏は大学近辺。職場が近くスーパーも本屋も飲食店もあり、暮らしやすく便利な所で、車がなくても生活できる。車が嫌いというわけでも無いが、好きというわけでもない。あえて「乗らない」主義。ここだけの話、いくらマイペースの原さんでも、やはり根っこは大阪人。ハンドルを握るとイライラしてしまうことがあるのだとか。その点、バスや電車移動だと、本を読んだり風景を見ながら「あそこに小さな神社があるから、あの山が御神体かな?」と、歴史マニアならではの観点から風景を眺めては妄想することができる。
 松江に移住する前は滋賀県高島市で暮らし、地域おこし協力隊として地域活性化の仕事に携わっていた。高島市はのんびりと田園風景が広がる地域。その中をロードバイクで遠征するサイクリストだった。
 松江に来てからはクロスバイクが「相棒」。大学へは相棒で通勤。渋滞に巻き込まれることもない。都会のように人や時間の流れにのせられている感覚はなく、自分のペースで行動することができている。また相棒にのって町の中を走ると、車では気付けなかったことに気が付くことができる。
 例えば『ここは坂なんだ』とか『こんな道があったんだ!』とか『横風強いな~』とか。外気と接していると季節の移り変わりもカラダで感じることができるのだ。「相棒に乗って町を散策すると、プチ冒険するみたいにワクワクするんです。『心の自由』という感じかな~」と楽しそうに原さんは話す。

相棒と一緒に
ワクワク町散策

 松江を巡るお気に入りのコースは、自宅から宍道湖へのコース。まず大学近辺、車の交通量が多い大通りを出発。一本、脇道に入ると城下町の風情が残る住宅地となる。小さな商店や老舗の酒蔵、醤油蔵、お地蔵さんが至るところにある。また城下町にはお堀があり、城山を囲う内堀には観光遊覧船が巡っている。コンパクトな町の中に今と昔が混在しているかのようだ。ニュータウンで育った原さんにとって、暮らし圏域の中に城があり、脈々と受け継がれている文化やそれにまつわる観光地があるというだけでもワクワクするのだ。
 そしていつも決まって県立図書館に寄る。文学や歴史の本、また「不昧公の好みが何たるか?」もここで学んでいる。読書に没頭して、ふっと本から目を離し顔を上げると、窓の向こうには城山の緑が見える。やさしい景色にいつも癒やされている。
 2時間たっぷりの読書を終えると、次は県庁近辺のオフィスビル街を通り抜けて宍道湖へ。城下町に溶け込んでいる宍道湖の風景が好きだ。空と湖の水色が混じり合っている時は、一層空間が広く開放感を感じる。そして、深呼吸――。宍道湖の最東端にある宍道湖大橋の真ん中で止まって町や川を見ていると、川の上に浮いている錯覚に陥る。
 このように空気や風を感じて生活できるおかげで、休日は晴れていたら意味もなく相棒と市内を巡ることが定番化してきた。まだ行ったことのないところへ今日も相棒と一緒に散策している。
 「地方は元気がない」と良く言われるが、そうではなく「焦りがない、あくせくしてない」だけ。松江で暮らす熟成された文化や大人に憧れ、原さんは30歳の時を送っている。

原 周右さん
原周右さん
大阪府堺市出身。ニュータウンで育ち、立命館大学文学部人文学科日本史学専攻卒業後、2年間会社員となる。その後、滋賀県高島市の地域おこし協力隊として移住。3年間の任期を終えた後、島根大学の大学生交流事業のプロジェクトを行うために松江へIターン。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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