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島根の魅力で人を笑顔にしたい!
豊かな想像力で見出す島根のおもしろさ

松江市を拠点にし、独自の感性で
新しい観光ビジネスを手掛ける植田菜月さん。
現在は宍道湖の夕景を背景に営む
「宍道湖サンセットカフェ」をはじめ、
地域を元気にするためのさまざまなプロジェクトに
積極的に取り組んでいる。
「人が好き、島根が好き」。
そんな自分の気持ちに真っ直ぐに、
日々の暮らしを自然体で楽しむ植田さんに会いに、
サンセットカフェを訪ねた。

夕日に魅せられて生まれた、
出会えたらラッキーなサンセットカフェ

 松江の街をしっとりと潤す宍道湖は「日本の夕陽百選」に選ばれる夕日の名所である。松江市側から臨む落日はことのほか美しく、夕日の鑑賞スポットで知られる県立美術館の西側の湖岸沿いには、夕景の時分になると多くの人たちが集まり、空と湖、夕日が織りなすひとときの芸術を楽しんでいる。
 植田さんもそんな宍道湖の夕日に魅せられた一人。「たくさんの人にこの景色を見てほしい」と、夕日が照らす湖畔の芝生に「宍道湖サンセットカフェ」を立ち上げた。パステルのステンドグラスで作られた宝石箱のような店舗で、晴れた日の夕刻にはオレンジ色の陽が射し込み、美術館のオブジェの一つかと見紛うほどである。
 このカフェの最大の特徴は「夕日がきれいに出ている時間帯のみ営業」というもの。いつも出会えるとは限らない、プレミアム感のあるカフェである。「人を感動させてくれる圧倒的な自然」。植田さんは宍道湖の夕日をそうリスペクトする。「ただの夕日も見方を変えるだけでエンターテインメントになる。だからここも、ただ営業しているカフェではなく、夕日が見える時だけというコンセプトにすることで夕日に付加価値をつけたかったんです。夕日はテーマパークのキャラクターと同じ。会えたらラッキーだし、会えなくて怒る人もいないですよね」と植田さん。思いもよらない、夕日とテーマパークのキャラクターの共通点に驚かされる。その奇想天外な発想には、遡ること7年前のアメリカでの経験が大きく影響している。

 植田さんが生まれ育ったのは島根県奥出雲町。子どもの頃から地元が好きで、「高校時代、周りの友達は都会への憧れがあるようでしたが、私は地元が好きだったし、島根で働きたいと思っていた」と話す。
 松江の大学へ進学し、在学中は短期留学や交換留学のために渡米した。就活時には観光業を希望したが、植田さんが思い描くような職はなかった。「ここで妥協して働くより、遠回りをしてでもさまざまな経験や新しい価値観を得て自分に力をつけたい」。植田さんは専攻していた英語を活かし、再びアメリカ行きを決意。観光業に通じる仕事をと、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートで1年ほど勤務し、異国の地で働きながら本場のエンターテインメントを肌で感じて学んだ。ディズニーの「訪れる人たちを笑顔にする力」や、フィナーレに上がる花火に「今日一日楽しかったな」と感動する気持ちなど、ここでの経験が前述のサンセットカフェの閃きへと繋がっていったのだ。

【奥出雲の景色】 植田さんが生まれ育った奥出雲町は神話の地としても名高く、美しい山並みや棚田など、風光明媚な景色が広がる。

人との出会いと繋がりが導いた
カフェの実現

 アメリカから帰国すると、松江に住居を構えて就職活動をはじめた。観光業に就きたいという植田さんを後押ししてくれる人たちとの縁もあり、さまざまなまちづくり事業などに携わった。さらには「観光の仕事をやるためには発信力を身につける経験が必要」と、島根県の観光大使も務めた。「そういった経験を通していろんな人と出会えたことが私の財産になっていきました。力を貸してくれる人もたくさんいて、島根は人との繋がりがとても深いなと改めて感じます」と植田さん。自分のやりたいことに向かって、少し回り道をしながらも一歩一歩着実に足元を固めていった。
 「宍道湖サンセットカフェ」は、植田さんが「夕日を見た感動をたくさんの人に伝えたい」と帰国した頃から温め続けていた構想の一つ。まちづくり事業に携わる傍らで、その実現に向けてのアプローチ活動にも力を入れていった。
 「企画書を持って、私のところにもきてくれました」。そう話すのは「松江に新しい風を起こす」をミッションにまちづくりを手掛ける株式会社ちいきおこしの代表、河野美知さん。会社が設立して間もないころ、植田さんからサンセットカフェの構想を聞いた。「宍道湖畔は公共エリアだから、いろんな人を巻き込んでたくさんの課題をクリアしていく必要があるね」。その時河野さんは植田さんに、そんな風にアドバイスしたという。
 植田さんはその後、宍道湖岸を草刈りするNPOや水辺のアクティビティをやっている人たち、宍道湖の漁師など、エリアに関わる人や場所に積極的に働きかけていった。「どんな仕掛けをしたら人のコンセンサスが得られるのか、彼女が独自でいろいろと調べてやっていました。頼もしいというか、すごいなと思いますね」と河野さん。
 植田さんの要望もあり、「宍道湖サンセットカフェ」の立ち上げはちいきおこしのサポートのもと2020年、実現した。現在も河野さんと植田さんは、カフェをはじめとしたさまざまなプロジェクトで協力し合う関係だという。「彼女のような専門性の高いフリーランスと組むというスタイルは今後増えていくのでは。その上で一番大切なのは信頼関係ですね。何をやるかよりも誰とやるかだと思います」そういった意味でも、植田さんは頼もしいビジネスパートナーだと河野さんは語る。

【玉造の「八百万マーケット」】 地元のこだわりの品が並ぶアンテナショップ「八百万マーケット」には、植田さんが手掛けた商品も置かれている。ちいきおこし河野さんとの打合せもここで行われることが多いという。

オンとオフの境界線はあえてつくらない
自分らしい働き方

 現在はサンセットカフェのほか、フリーランスで観光やまちづくりの企画開発、広報PRなどの仕事を手掛ける。地元の大学生と堀川遊覧船のPRのマッチングなど、学生を対象にした活動にも意欲的だ。「私自身、大学生の頃に地元をよく知らずに過ごしていたことを後悔しました。今の学生たちにはもっと島根の地域資源に触れて、地域を好きになってもらいたい」と思いを話す。
 日々複数のプロジェクトを動かし、多様な働き方をする植田さんは、スケジュールを管理する手帳も自分でオリジナルのものをつくる。「自分の生活に合うものがなくて、作っちゃいました」という植田さんの手帳を見せてもらうと、日々の細かいタスクが丁寧に記入され、妥協のない性格が垣間見えた。プライベートでは家族や友人と季節のスポットや神社を巡るのが楽しみ。中でも熊野大社は月に1度は訪れるほどお気に入りだという。「島根の人って自分の好きな神社を持ってる人多いですよね。私はここがお気に入りで、時々パワーをもらいに来ています」と話す。
 しかし晴れた日にはカフェを開けなければならない。「友達には、雨が降ったら会える子って思われてます」と笑うが、予定が天候に左右される事にストレスはないのだろうか?
 「私はオンとオフの境界線があまりなく、その曖昧さを楽しんでます。カフェをしながら夕日に癒やされているので、それもストレス解消なんです」と屈託なく笑う。そんな働き方が成り立つのは、やはり人と環境のおかげと、植田さんは言う。「帰国後に仕事を探している時から、たくさんの人に助けてもらいました。それも島根の持つ「ご縁」の力なのかなって(笑)。気にかけてくれる人が周りにいて、季節ごとに違う自然の美しさやおいしいご飯など、島根の環境によってもたらされている幸せを暮らしの中で感じています」

【大学生との活動】 島根県立大学の松江キャンパスにて、学生たちとの活動の様子。学生たちが主体となり、堀川遊覧船のPR方法など積極的にアイディアを出しあう。
【手帳】 「自分の生活に合わせて一から作った」というオリジナルの手帳はまるで既製品のような出来栄え。分刻みのスケジュールが分かりやすく書き込めるようになっている。
【神社巡り】 植田さんが月に一度は訪れるという熊野大社はスサノオノミコトを主祭神とした由緒ある神社。「空気感というか、雰囲気がすごく好き」と話す。

 日々の中であれこれ想像を巡らし、やってみたいことやワクワクすることを考え、そこから仕事のヒントを得るという植田さん。「自分がワクワクできて、それが結果的に誰かのためになったり、人が喜んでくれたらうれしい」。そこにはもはや「仕事」という概念もなく、暮らしの一部として楽しんでいるのだと思わせられる。
 「夕日も見方が変われば最高のエンターテインメント」といった植田さんの言葉、すなわち何事も想像力次第で楽しくなるというのが、彼女の今の生き方の答えなのだろう。
 最後に今後の目標をたずねてみた。「たくさんあるけど…」と前置きをして、「誰もが自分の持っている強みをきちんと活かせる。島根をそんな場所にしていきたい。島根にはまだ可能性がいっぱいあって、何でもできそうな気がする」と真っ直ぐな目で語ってくれた。植田さんの目には、島根はまるでテーマパークのようにワクワクにあふれた場所に映っているに違いない。

植田 菜月さん
植田菜月さん
島根県奥出雲町出身。県内の大学を卒業後、アメリカフロリダ州に渡り、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートで1年ほど勤務。帰国後はフリーランスで観光やまちづくりの企画開発事業に携わり、2020年には宍道湖サンセットカフェをオープンさせた。YAKUMOiSM代表。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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