イメージは
文化祭。
モノやコトを
つくる楽しさ。

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津和野町の山あいにある旧畑迫病院。
千葉から移住してきた大江健太さんは
ここで「医食同源」をテーマとした
カフェ「糧」を経営している。
他にも津和野町内で仲間と一緒にグルーヴ感
あふれる様々なプロジェクトを始動中。

続けてきたことが
信頼につながる。

千葉から小さな城下町・津和野町へ移住してきた「ケンケン」こと大江健太さん。現在、大正ロマンを感じさせる旧畑迫病院を借りてカフェと小さな本屋を併設した「糧」を経営している。ここでは8人のメンバーがスキルを持ち寄りながら、地元の野菜を使ったランチを提供している。他にもカラダについて学べる勉強会や整体の施術会、季節の手仕事のワークショップを行っている。

「糧をはじめて4年経ちました。はじめは独走的に自分がやりたいことをやっていましたが、今は地元の人たちと一緒に活動をしている感覚になってきました」と話す。津和野はかつて都市と都市の間にあり交流の拠点として栄えた地。もともとIターン者を受け入れてくれる風土がある。先日行われた郷土料理のワークショップでは、地元のおばちゃんと町内や益田市内の参加者が交流。「包丁研ぎがあまいわよ~」と道具の使い方も教わりながら、和気あいあいと料理教室が行われた。

また、「糧」がある畑迫地域では「小さな拠点づくり」事業がはじまった。中山間地域の暮らしを維持するため住民が主体となってさまざま事業を展開するもので、大江さんも住民の一人として参加している。これまで建築関係の仕事をしていた経験を生かし、多目的キッチンや民泊宿の設計、リノベーション、その他空き家対策にも関わっていく予定だ。

あるモノを利用する
リノベーションのおもしろさ。

大江さんは15年前、新卒で千葉のハウスメーカーに就職し、注文住宅の販売を行っていた。「分譲地の中で注文住宅を建てる会社にいたのですが、分譲地って1つの町なんです。自分は単に家が寄り集まっただけの団地をつくるんじゃなくて、そこに住む人たち同士、顔が見えるような『横の関係』までも設計できるようになりたいな、と考えていました」。ハード(家づくり)とソフト(関係づくり)の両方を充実させることで、〝町〟の暮らしが楽しくなるのではないか――そう考えたのだ。しかし「そんなことできないよ!」と先輩から一蹴され、夢と現実のギャップに心が折れた。それから自分のやりたい人と人の関係を育むソフト事業を会社以外で模索するようになった。

ちょうどその頃、廃墟ホテルを活用したプロジェクトと出会う。そこではシェアオフィスやテナントの運営、イベントではアウトドアウエディングや様々なワークショップの企画に携わり、人と人の関係を育む場づくりに関われた。プロジェクトが一区切りし、運営メンバーのひとりから「ケンケン、次は島根かもよ。江津市にいってみない?おもしろい活動をしている人が多いよ」と誘われて、後日江津市へ訪れた。

「江津で出会った人たちは未来志向でワクワクしながら仕事をしているところが素敵だなと思いました。ここなら自分のやりたいことができるかも!と思い、その場で『江津に行きます!』と言っちゃったんです」と大江さんは笑う。気に入ったのはそれだけではない。山陰の風景が目に焼き付いた。江津市に行くまでの道中、中国山地のしっとりした緑の山並みや田畑が生き生きしている山里を見て「古き良き日本」が残っていることに感動。この自然から学べることを建築に表現してみたいと思ったのだ。

まさかのダウン!
食が暮らしを変える。

江津では建築リノベーションの仕事に就いた大江さん。「仕事量は多かったけど、仕事自体はやりがいもあり、とても楽しかったです。ただ、意気込んで何でも抱え込みすぎてしまって…」。それが原因で体調を崩し、仕事を辞めざるをえなくなった。養生している間にカラダのことを知ろうと、たくさんの本を読んだ。そのおかげで普段からの食を見直し、カラダを整える方法を実践して体調を改善することができた。

自身の体験から日本人が昔からやっていた暮らしの知恵や和食の素晴らしさを知り、「こういった昔からある知恵を学び合える場所をつくりたい」と思っていたところ、ちょうど津和野で食の活動をしている女性とつながり『糧』を立ち上げることになった。旧津和野地区は町の情報が把握できるようなコンパクトサイズの町。この地でなら前職の企業で実現させることができなかった「町のソフトインフラができる!」と考えた。

町中を巻き込み
皆でワクワクしたい!

「この町で暗躍するひとになりたい」とふふふと笑う大江さん。腹黒そうな発言だが、そうでもなさそうだ。「建築をやろうと思ったきっかけは高校の文化祭で装飾のリーダーをしたからです。やる気のない雰囲気から文化祭前夜にかけて盛り上がっていくグルーヴ感がたまらないんです。町で活動する時も仲間と一緒に、グルーヴ感を感じていたいんです」と大江さん。陰の立役者としてますます活動を広めそうだ。

これまでも建築やリノベーション、糧の取り組み、人間関係なども「文化祭前夜のグルーヴ感」が大江さんのモチベーションとなっている。津和野の「つわのスープ」イベントや「つわの蚤の市」活動もその一つ。参加してくれる人が楽しそうにしている。笑顔になってくれる。関わってくれた人の価値観が変わる。裏方としてそれに関わっていることが大江さんの幸せにつながるのだ。 それも、町の人たちが大江さんのような若い移住者の話を聞き、理解を示し、活動を任せてくれるからこそ。「どんどん若い発想でやっていってほしい」と公民館館長。「料理が好きだから、それを生かせることができてありがたいよ」と糧の調理をしている地域のお母さん。どちらも大江さんの活動を応援し、地元の活動にも積極的に参加している2人だ。

「この町に住みたいと思い続けられるような雰囲気をつくり、自分はそれの潤滑油であったらいいなと思います。自分のように活動する人たちがどんどん増えて、皆が生き生きしてくれたらいいな」と大江さん。陰で暗躍する立役者が思い描く構想はまだ始まったばかりだ。

大江 健太さん
大江健太さん
千葉県出身。住宅販売の仕事に就きながら、廃墟ホテルや廃墟スーパーを活用した活動を行う。知人の紹介で島根県江津市のSUKIMONOでリノベーション事業に携わる。カラダを壊したことで食やカラダを整えることに関心を持ち津和野町でカフェ「糧」をオープン。現在、「糧」を拠点としてまちを楽しくする活動を行っている。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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