ゆるやかな〝みざわ時間”の中で
ちょうどいい暮らしを楽しんで

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山々に抱かれた奥出雲町三沢(みざわ)地区に、
ご縁に導かれて暮らしを結んだ落合友香さん。
移住から四年、今では移動販売車「ともに号」で
地域を巡り、笑顔を届ける日々。
人と人、そして自然が寄り添うこの町で、友香さんの穏やかな日々は今日も続いている。

ご縁がつないだ、
奥出雲での新しい居場所

住み慣れた土地を離れ、新しい場所へと暮らしの場を移す。その理由は人それぞれだが、結婚を機に相手の故郷へと向かう人もいる。落合友香さんもまた、そんな“ご縁”に導かれて、奥出雲の地に根を下ろした一人である。


岩手県出身の友香さんが、夫・孝行さんとめぐり逢ったのは宮城県石巻市。孝行さんは、2011年に起きた東日本大震災のあと、「人を元気にしたい」という思いから地元・奥出雲町を離れ、被災地で高齢者に体操を教える仕事に携わっていた。一方、仙台で理学療法士として働いていた友香さんは、石巻で開かれていた福祉のイベントに参加し、その会場で孝行さんと出会った。二人は2017年に結婚。石巻で穏やかな日々を送っていたが、三年後に転機が訪れる。孝行さんが「今度は地元の人たちを元気にしたい」との思いから、地域おこし協力隊として奥出雲に戻る決意をしたのである。

宮城から島根へ―。その距離は決して近くはない。それでも友香さんに迷いはなかった。「結婚前から何度か奥出雲を訪れていました。この町の人の温かさや郷土の食べ物、美しい風景に触れて、来るたびに大好きになっていったんです。宮城に帰るときには泣いてしまったくらい(笑)だから移住することには特に抵抗はありませんでした」

“ともに”から広がっていく、
地域とのつながり

山々が折り重なる奥出雲町の中でも、三沢地区はとりわけ里山の原風景が色濃く残る。四季ごとに表情を変える山の稜線、季節の実りをもたらす田畑、そこに息づく歴史と文化。この土地が積み重ねてきた時の深さが、静かに漂う地域である。

その三沢地区に友香さんが暮らし始めたのは、2020年9月のこと。5月に長男を出産したばかりで、赤ん坊を抱えての引っ越しとなった。「こちらでも何か仕事をしようと思っていましたが、知り合いもいない中で家と職場の往復だけでは気持ちが滅入ってしまうのでは、という不安もありました。子どももまだ小さかったので、できれば預けずに一緒にいたいという気持ちもあり、迷っていたんです」と当時を振り返る。


そんな友香さんに声をかけたのが、ご主人に地域おこし協力隊の道を勧めた「NPO法人ともに」(以下、「ともに」)の理事長・吉川さんだ。2019年、地域で唯一のスーパーが閉店になったことを受け、「ともに」は住民の生活を支えるため、食料品や日用品を扱う「ともにマーケット」を開設。吉川さんはその店番を友香さんに提案したという。

「子どもも連れてくればいいと言っていただいて、最初は迷いましたが、週に2回の開店日だけお手伝いすることにしました。店番をしていると、訪れるお客様がとても喜んでくださって。子どもを見て“あら、かわいいねえ!”と声をかけていただくたびに、地域に受け入れてもらえた気がしました」と微笑む。地域に子どもが少ないこともあり、住民みんなが身内のように見守ってくれるという。

その後、移動手段のない住民のための移動販売車「ともに号」がスタート。子どもを預けられるようになってからは、友香さんがメインスタッフとして地域を回っている。「皆さんの家を訪ねると、“待ってたよ〜”と声をかけてくださるのがうれしいんです。私も皆さんとお話しするうちに、逆に元気をもらっていて。お互いに支え合っているような、そんな関係だと感じます」

人と人がつながる、
里山のやさしい毎日

友香さんは、奥出雲での暮らしについて「時間の流れがゆるやかに感じます。たぶん、周りのみんながゆったり暮らしているからかな。話し方も穏やかで、焦ってもしょうがないのかなって思えるんです」と語る。そんな土地での日々の中で、いちばん幸せを感じるのは家族と過ごす時間だという。「特別なことはしません。出雲や松江まで足を伸ばすこともありますが、家でのんびり過ごしたり、友達の家を行き来することが多いですね」

子どもたちには自然のなかでのびのびと育ってほしいといい、通っている幼稚園でも山登りや畑での野菜づくりなど、豊かな自然体験が日常の一部になっている。「畑で採れたものを園で食べたりと、毎日楽しそうにしています。春にはタケノコを掘って、一生懸命持って帰ってきました」とうれしそうに話す。


そんな田舎ならではののどかな光景がある一方、三沢地区は県内外からの移住者も多く、若い世代を中心に“人が集う場所”づくりも進められている。「ともに」から数十メートル先には、かつての商店をリノベーションして作られた「レンタルスペース&キッチン金𠮷屋」があり、隔週の土曜日には立ち飲みバーが開かれる。店内にはお座敷もあり、営業日になると町内外から次々と人が集まってくる。小さな子どもを連れた家族の姿も少なくない。「子どもを連れて気軽に行けるバーって、都会には意外とないんじゃないでしょうか。知っている顔ばかりなので安心ですし、こういう場を親子で楽しめるのは、三沢ならではですかね」と友香さんは笑顔で語る。地域の人たちが集い、大人も子どもも心地よく過ごせる場所。そんな“ちょうどいい距離感”のある暮らしが、ここ三沢には息づいている。

「地域の人たちを元気にしたい」が
いつの間にか目標に

八月の終わり、この日三沢地区では「みざわまちあかり」が開かれた。もともとは、火伏せの神として知られる“秋葉権現”を祀る「十七夜祭」として続いてきた行事だが、コロナ禍でその伝統が途絶えた。しかし「夏だから何か楽しいことを」という若者たちの声から、軒先に明かりを灯す「まちあかり」として、新たな形で受け継がれることになった。

三沢の通りには二十七の露店が並び、夕暮れとともに賑わいを見せる。十九時を過ぎるころには、秋葉権現を祀る蔭涼寺の山門と石段がライトアップされ、いつもは静かな通りが柔らかな灯に包まれた。

友香さんは、甚平姿の子どもたちの手を引きながら通りを歩き、行き交う人たちと笑顔であいさつを交わす。普段から顔を合わせる仲間たちに友香さんの印象を尋ねると、「あぁ、友香ちゃんってそういえば宮城から来たんだっけというくらい、地域に馴染んでますね。誰に対しても垣根がなくて、三沢では有名人だと思いますよ」と笑顔で話す。

毎日のように言葉を交わすという安田彩夏さんは、東京から地域おこし協力隊として移住してきた一人。友香さんを「頼れるお姉さん」と慕い、「ライフイベントの相談など、話しにくいことでも何でも聞いてもらっています。子育てや仕事で忙しいはずなのに、いつも明るくて前向き。暮らしを楽しむ姿を見ると、私も元気をもらえるんです」と語る。

彼らいわく、三沢地区は一度関わると離れられない魅力があるという。外から来た人も、いつの間にか自然に溶け込んでしまう、三沢にはそんな懐の深さがある。「地域の人を元気にしたい。もともと夫がやっていたことが、いつの間にか私の目標になっていて…不思議な関係だなって思います」と笑顔で語る友香さん。人の手と自然が寄り添う三沢の暮らし。その中で生まれるつながりが、町と人々をあたたかく灯している。

山中将道さん
落合友香さん
岩手県生まれ、宮城県育ち。仙台で理学療法士として働いていた頃、石巻で出会った夫と結婚し、2020年に夫の故郷・奥出雲町三沢地区へ移住。地域の商店「ともにマーケット」や移動販売「ともに号」で住民との交流を深めながら、日々の暮らしを楽しんでいる。 ※掲載記事は取材時点の情報となります。

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